本研究は、環境(水、大気、動植物相、生物多様性など)に対する侵害から、環境それ自体に発生した損害(純粋環境損害ないし生態損害とよばれる)について、市民のイニシアティブによる救済を可能とするための法的枠組みの構築を目指して、フランス民事責任法における議論および立法を参照するものである。 フランスでは、1970年代から環境保護団体等による環境侵害行為者への民事責任の追及が実践されてきており、このような訴えの理論的正当化を目指して講学上、判例上さまざまな試みが行われてきた。学説、裁判実務の動向を受け、本研究の申請当時において既に立法化の動きがあり、本研究の開始とほぼ同時期に「生物多様性、自然および景観の回復に関する2016年8月8日の法律」によって、フランス民法典中に、生態損害の賠償に関する諸規定が新設された。本研究は、当該立法がフランスの民事責任法および環境法に及ぼす影響を中心に検討を行うものである。 平成28-29(2016-2017)年度、とくに立法直後においては、参照できる文献は限定的であったが、フランスの研究者による当該立法にかかわるワークショップ等への参加等と合わせて情報の収集と分析をおこなった。また、フランスの環境法研究者による当該立法に関する論文の翻訳もおこなった。平成29年度後半から30年度(2017-2019)ころには、フランスにおいて本格的な研究論文等の公刊も進み、平成30年度には、本研究においてもそれら文献を収集、分析し、上記立法とフランス民責任法改正をめぐる議論との関係についても検討した。2019年1月以降の時期には、実施期間中の研究成果の公表にむけた執筆作業を行い、また研究者、学生等をおもな対象とする講演形式での研究報告を実施した。
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