研究課題/領域番号 |
16K03385
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村上 正子 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (10312787)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 執行手続の柔軟性 / 子の意思の把握 / 迅速な子の返還 / 子の利益 / 裁判外手続との連携 |
研究実績の概要 |
平成29年度は比較法調査・研究をメインとした。ハーグ条約の適用事例から子の監護をめぐる紛争処理の国際水準を明らかにすべく、ドイツ及びオーストラリアの状況を調査した。 ドイツにおいては、ハーグ条約適用事案の執行については、国内事案と異なり職権執行の制度が採用されており、子の返還裁判を担当する裁判官が執行手続まで担当することで、迅速な返還の執行が可能となっている。他方で、執行手続で子の拒絶の意思が強固で執行不能となる事案があることは日本と共通している。返還裁判において子の意見聴取をいかに適切に行うかが重要であり、ドイツの場合は返還裁判から執行手続に至るまで一貫して少年局の職員が関与しており、子の意思の適切な把握に努めている。日本では返還裁判に関与している家裁調査官は執行手続には関与せず、子の意思の把握の連続性が課題であると思われる。 オーストラリアにおいては、執行手続よりも子の返還裁判に重きがおかれ、返還命令の主文において詳細な返還手段が記載されている点が特徴である。子の監護についてもペアレンティングオーダーを詳細に定め、裁判官や家裁調査官が継続的に関与している。また家庭裁判所のシステム自体は日本に類似しており、家裁調査官が子の意思の調査をするが、日本よりもその関与は継続的であり、例えば子に対して返還命令の告知・説明も行い、出来るだけ執行手続が迅速に進むよう工夫している。また、他国の裁判官同士のネットワークを活用し、国境を越えた調整(条件づけ)が非常に重要であることがわかった。また、裁判所以外の機関の協力のあり方も参考になった。 本研究の目的は、日本の手続を国際スタンダードに押し上げようとすることにあるが、近時公表された2つの最高裁判例の検討を通して、日本の裁判所が可変的な子どもの状況に臨機応変、柔軟かつ継続的に関与するにはどうあるべきかを考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、当初予定していなかったオーストラリアにおけるハーグ条約の運用や子の監護紛争の処理について調査を実施したため、当初予定していた英米における調査が次年度への持ち越しとなった。しかし、オーストラリアは欧米諸国よりも日本との交流が盛んであり、かつ家庭裁判所のシステムも共通するところが多いことから、オーストラリアにおける実務は多いに参考になる点が多いこともわかり、新たな発見もあった。 また、これまで公表されていなかったハーグ適用事案の判例が、一部ではあるが公表されたこと、また実施法が施行されてから4年という実績を積んだことで、国内における議論もある程度まとまってきたこと、国内の執行法の改正における子の引渡しの執行手続についての議論もあり、そちらの調査・検討も追加で行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究の最終年度であることから、前年度の比較法調査の結果を整理し、それらを踏まえて総括に入る予定である。 これまでの調査結果をもとに、子の監護をめぐる紛争処理の国際水準をはかる基準ないしは理念である、迅速性・柔軟性・継続性・連続性(連携性)を実現するためには、どのような手続が望ましいかを考えるが、その実現可能性について、実務家の意見をふまえて検証する。ハーグ条約適用事案については、当事者のプライバシーの保護から、裁判所の判断や具体的な事案の中身が公表されないことから、なかなか議論が進まないという事情もあるが、当事者の代理人弁護士の協力を得て、出来るだけ具体的な資料に基づいて検証することを考えている。 これまでは執行手続の迅速性・柔軟性を調査・検討してきたが、比較法調査の結果、本来の債務名義作成過程を充実させることがより重要であると判断するに至ったことから、最終年度ではあるが、この点について、引き続きオーストラリアの手続に加え、新たに英米諸国の実務も調査することで、具体的な提言につなげたいと考えている。 また、近時子の監護をめぐる紛争の処理として重視されている合意による解決について、裁判所以外の機関との連携のあり方についても、一定の方向性を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、英国及び米国における実務の調査を予定していたが、予定を変更して、オーストラリアの調査を実施したため、次年度使用額が生じたものである。 平成30年度は、当初予定していた米国における調査を実施する。
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