今年度は、国際的な監護紛争の処理について、①ハーグ子奪取条約の適用事案との関係、②国際裁判管轄との関係、③外国裁判の承認執行との関係という、3つの異なる観点から検討を加えるとともに、研究の総括を行った。 ①については、ハーグ子奪取条約実施法に基づく子の返還命令に反して子の拘束を続ける母親に対する人身保護請求を認めた最高裁判例を検討し、返還命令に従わないことをもって拘束の違法性を認めたとことに、国際的な子の奪取の統一的解決に向けての契機があると評価した。②、及び③については、2019年4月から施行された身分関係事件の国際裁判管轄、特に離婚請求の附帯処分として子の養育費や子の監護に関する処分がなされる場合について検討した。近時は子の利益を重視し、子の監護に関する処分にかかる裁判においては、子の意見を聴取することがこれまで以上に要請されていることに鑑みると、子が日本に居住していなくても離婚訴訟の中で適切に子の監護について判断するには、子の住所地国で子の状況に関する調査や情報収集を国際司法共助により行うことが不可欠となると思われるが、実務ではほとんど利用されていないとされていることから、今後検討していく必要があることがわかった。また、特に①との関係では、返還命令の執行が子の拒絶によって不奏功に終わることについても、返還裁判の審理において、いかに子の意見聴取の機会を保障し、それを適切に裁判に反映させるかが、今後の課題であることを確認した。 日本はハーグ子奪取条約にも加盟し、子の監護に関する処分を含めた身分関係事件についての国際裁判管轄の規定も整備され、国際監護紛争を処理する枠組みは一応整ったといえる中で、今後はその具体的な運用において、特に子どもの意見をどのように手続に反映させるか、子の意見聴取の方法を検討していくことが、国際監護紛争の適切な処理には不可欠であるとの結論に至った。
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