本研究の目的は、民法を中心とする民事実体法と、手続法、そのなかでもとくに民事執行法との関係についての考察を、一歩進めるところにあった。 最終年度の具体的な研究成果は、民事執行法上の損害賠償責任に関する論考を公表することができたにとどまる。 期間全体の研究成果としては、練達の裁判官、民法研究者、民事手続法研究者との共同研究の公表がある(論及ジュリスト誌上に2017年から2018年にかけて連載された、現代訴訟の論点と法理論の検討(1)から(6))。また、個別具体的な問題の検討としては、謝罪広告、詐害行為取消権(手続法としては、執行法ではなく訴訟法が中心ではあるが)についての研究成果の公表などがある。 当初の研究計画によれば、個別問題の検討を通じて、権利実現の実効性確保という方向性のみに偏らず、他に考慮すべき実体法上の権利・価値等がないかどうかを探り、適切にそれらを考慮に入れた解釈論・立法論を展開する予定であったが、研究期間中に民法・民事執行法の改正が行われ、問題状況は一変している。 とくに実体法である民法414条と手続法である民事執行法の改正については、実体法は抽象的に権利実現のために強制履行が可能であることを定めるにとどめ、具体的な執行法方法については民事執行法に委ねる、すなわち、債務内容と執行方法との連関について実体法の縛りがなくなったとする見解がおそらく支配的な見方になっている。しかし、研究代表者自身は、個別問題の検討を通じて、なお、実体法上の権利内容を精査することが、具体的な執行方法の決定にかかわる解釈論立法論に影響を及ぼす可能性があることは否定できないとの理解に至っている。
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