研究課題/領域番号 |
16K03397
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小林 道生 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60334950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 消費者契約法 / 勧誘 / 媒介 / 保険業法 / 保険募集 / 保険募集規制 |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究実績としては、小林道生「消費者契約法における『勧誘』、『媒介』と保険募集の意義」静岡大学法政研究23巻3・4号掲載予定をあげることができる。 顧客(保険契約者)が消費者である保険契約は消費者契約に分類され、消費者契約法上の勧誘規制が適用されるところ、近時、最高裁判例において、消費者契約法上の「勧誘」に該当するためには、特定の消費者に対する事業者側の働きかけでなければならないわけではなく、広告やチラシの配布など、不特定多数の消費者に向けた働きかけであっても、「勧誘」に当たる場合があることが明らかにされた(最判平成29年1月24日民集71巻1号1頁)。これを受けて、本稿では、まず、消費者契約法4条に関し、保険会社による保険商品の案内チラシの配布や広告を掲載する行為について、どのような場合が消費者契約法にいう「勧誘」に当たるのか、また、同法5条1項の適用が問題となる場合には、保険者から第三者への保険商品の案内チラシの配布や広告を掲載する行為の委託は、「媒介の委託」と評価できるか、検討を行った。 一方、保険募集の意義について、金融庁の監督指針では、保険商品の案内チラシの配布や広告を掲載する行為は、基本的に保険募集に該当しない行為とされており、保険募集に当たらない以上、当該行為に従事しても保険業法上の行為規制が課されることはない。もっとも、商品のチラシ配布や広告の掲載という行為も、当該行為に従事する主体によっては、保険募集(監督指針にいう「保険契約の締結の勧誘」)に該当する場合があるといえるのではないか、さらに、上記の最高裁判決を踏まえた消費者契約法における議論状況が保険募集の意義(「保険契約の締結の勧誘」の意義)を考えるうえで何らかの示唆を与えることにならないのか、これらについても併せて考察を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最近の消費者法分野における最高裁判例の出現により、研究実施計画作成段階では顕在化していなかったものの、消費者契約法上の「勧誘」の意義と保険募集の意義との関係という論点についても、早急に取り組む必要が生じた。そこで、昨年度(平成30年度)は、この課題に係る問題の所在を明らかにし、検討の結果を論文にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、平成26年改正保険業法により新たに導入された主要な保険募集規制を検討対象としている。平成29年度は、保険業法294条1項の情報提供義務について検討し論文にまとめることができた。今後は、平成26年改正の際に、情報提供義務と並び顧客に対する行為規制として導入された「顧客の意向把握義務」(保険業法294条の2)について、適合性原則との関係を意識しつつ考察する予定である。 なお、昨年度は、上記のとおり、消費者法分野における最高裁判例の出現を受けて、研究実施計画策定時には顕在化していなかった消費者契約法上の論点との関わりについて取り組んだ。同様に、民事法との関連では、民法(債権法)の改正作業のなかで議論された約款の組入要件としてのその事前開示、不意打ち条項規制と保険業法の新たな情報提供規制がどのような関係にあるのか、自らの問題意識を明らかにしつつ、とくに家計分野における保険契約者保護の実効性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 所属研究機関から配分を受けた研究費(運営費交付金分)の金額が従来の想定よりも多額であったため、支出が抑えられたことによる。 (使用計画) 所属研究機関の勤務の日程上可能であれば、複数回、海外(ドイツ)への出張を考えている。
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