平成29年4月から同31年3月まで所属部局の長(京都大学大学院法学研究科長)に就任し、思うように研究時間を確保することが困難になった。そこで、研究の方向を修正して、自動車保険において被害者に保険者に対する直接請求権が認められているという構造に着目して、そのことが損害額の確定や自動車保険以外の損失補償手段(たとえば労災保険)との調整にどのように影響を与えうるのかという問題を中心に検討を行った。 平成29年度は主として任意自動車保険約款で定められた被害者の直接請求権にかかる規律のあり方について研究を行ったが、平成30年度は自動車損害賠償保障法16条が定める被害者の直接請求権にかかる規律のあり方について研究を行った。とりわけ、被害者の直接請求権と被害者に労災給付を行った労災保険の代位求償権が競合した場合の調整のあり方や損害査定実務のあり方に関して平成30年9月に出された最高裁判決(最判平成30年9月27日民集72巻4号432頁)はこれまでの自賠責保険実務に変更を求めるものであって実務界への影響も大きく、本格的な理論研究が期待されているところでもあることから、本研究における平成30年度の主要テーマに据えて研究を開始した。平成31年度中には雑誌論文等の形で研究を公表することを企図している。 上述の通り、研究時間確保の困難により、当初の研究計画は変更せざるを得なくなったが、被害者の直接請求権に研究の焦点をシフトしたことで、結果としてはこれまで必ずしも十分には解明されていなかった直接請求権をめぐる法律問題について理論研究を進めることができ、学界へも相応の貢献ができたものと考えている。
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