研究課題/領域番号 |
16K03402
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 利一 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (60273869)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 倒産裁判所 / 法的整理 / アメリカ合衆国 / 連邦裁判所 / 倒産法 / 連邦倒産法 |
研究実績の概要 |
本研究は、法的整理手続における裁判所(司法権)の役割について、アメリカ法を基点とした比較法的視点、および歴史的な経験を踏まえつつ考究するものである。また、今年度は、とりわけ、現在倒産法実務で生じている各論的な重要問題を通して、かかる役割について検討することを企図した。最初に、法的整理手続における裁判所の役割について、とくに、倒産債権の優先的地位と劣後化の問題を対象に検討を行った。アメリカ連邦倒産法の沿革を踏まえたこの研究は、東京大阪四会倒産法部シンポジウムでの基調講演に活かされ、その成果がNBL1149号・1150号に「倒産法における優先的地位と劣後化―債権者平等の意義を踏まえて(上)・(下)」として連載された。また、再生計画案策定に関する再生債務者の役割について、裁判所の関与のあり方を踏まえた研究を行い、その成果を全国倒産処理弁護士ネットワーク近畿地区研修会(大阪)での基調講演として発表した。また、この講演は、関西法律特許事務所開設55周年記念論集『民事特別法の諸問題第六巻』(第一法規、2020年3月)に「再生計画案策定に関わる再生債務者の役割―自主再建スキームの活性化に向けて」として掲載された。さらに、民事再生手続における事業譲渡の理論的正当性について、裁判所の関与の視点から研究を行い、伊藤眞ほか編・多比羅誠弁護士喜寿記念論文集(商事法務、2020年1月)に「いわゆる計画外の事業譲渡の正当性―債権者利益の位置づけを起点に」としてその成果を寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、アメリカ法の沿革とそこで生じた種々の論点を踏まえつつ、現在の日本法の問題点を考究するものであるところ、今年度は、(1)倒産債権の優先的地位と劣後化、(2)再生計画案策定における再生債務者の役割、(3)再建型の法的整理手続における事業譲渡の理論的正当性について、アメリカ法を参照しながら、研究を進めることができた。(1)については、東京大阪四弁護士会倒産法部と、(2)については、全国倒産処理弁護士ネットワーク近畿支部(大阪)と、(3)については、大阪倒産実務交流会との研究交流が基礎となっている。 これらは理論的研究でありつつ、倒産法実務家との協働を踏まえて行われたものであり、その日本法での成果を踏まえて、アメリカ合衆国の倒産裁判官に対するインタビュー調査と意見交換を実施する予定であったところ、新型コロナウイルスを原因とする厄災により、このことを実現することができなくなった。また、研究協力者の一人である、David Skeel教授より、新型コロナウイルスがアメリカの倒産裁判所にもたらす難問についてご教示をたまわり、急遽その研究を進めることとなった。具体的には、メールによる意見交換を踏まえ、ブルッキングス研究所から2020年4月に公表された、同教授による「Bankruptcy and the coronavirus, ECONOMIC STUDIES AT BROOKINGS, April 2020.’」の論攷の翻訳権をたまわった。この点は、アメリカの倒産法理論と実務に強い影響を与えるだけでなく、日本でも起こりうることであり、本研究のテーマとの関係で、避けて通ることができない現在問題として浮上したため、この課題へのアプローチを急ぎ進める必要が生じた。そのため、研究にやや遅れが生じることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
倒産手続における裁判所の役割を論じるにあたり、倒産法実務上生じる種々の具体的な問題を手掛かりとすることを意識している。論じるべき現在問題を把握するため、この間、理論研究者主体の研究会はもちろん、さまざまな倒産弁護士の主宰する研究会や、裁判所の研究会などに参加しつつ、自身の研究成果の報告と意見交換を行ってきた。その結果、(1)倒産債権の優先的地位と劣後化、(2)再生計画案策定における再生債務者の役割、(3)再建型の法的整理手続における事業譲渡の理論的正当性、といったきわめて重要な現在問題を認識することができ、また、それらに対する一定の見解を公表することができた。これらの問題は、アメリカ法においても、同様に難問とされてきたものであることから、彼の地の理論研究の成果はもちろん、併せて、倒産裁判官や倒産弁護士らに対するインタビュー調査と意見交換のためのカンファレンスを行う必要性を認識している。併せて、新型コロナウイルスによる経済停止、需要の蒸発から、優良企業であっても、「過剰債務」の問題が生じることが予測されている。この問題を現状解決できるのは、債務の減免ができる裁判所の主宰する法的整理手続のみである。裁判所の機能を如何に保全し、かかる手続を活性化するかが、それぞれの国の社会経済にとってきわめて重要な課題として顕在化している。この問題について、倒産実務家の協力を得ながら日本の対応状況をフォローしながら、アメリカやイギリスそれぞれの対応状況を整理し、あるべき裁判所の役割について、理論研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研費プロジェクトの最終的な調査のために、アメリカ合衆国カリフォルニア州に赴き、カリフォルニア大学ヘイスティングズ校のRichard Marcus教授(専攻:民事手続法)の協力の下、2020年2月および3月において、アメリカ合衆国の裁判官等にインタビュー調査と意見交換のためのカンファレンスを実施する予定であったところ、このたびの新型コロナウイルスの厄災により、カリフォルニア州に緊急事態宣言が発せられ、調査自体の延期が不可避となったためである。残額については、日本法で検討した論点を踏まえて、アメリカ合衆国の研究者の協力を得ながら、倒産実務家に対する簡潔なインタビューを実施することを企図しているが、その謝金として使用する予定である。
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