研究課題/領域番号 |
16K03402
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 利一 大阪大学, 高等司法研究科, 教授 (60273869)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 倒産裁判所 / 法的整理 / 倒産法 / アメリカ連邦倒産法 / 連邦倒産裁判所 / 倒産法 |
研究実績の概要 |
本研究は、窮境にある企業が自己の再生を企図して利用する、法的整理手続における裁判所(司法権)の役割について、アメリカ法を基軸とした比較法的視点、および歴史的な経験を踏まえつつ考究するものである。今年度は、コロナ禍が法的倒産制度に及ぼす影響につき、アメリカ合衆国における著名な政策研究所である、ブルッキングス研究所から公刊された論攷を翻訳した(David Skeel/藤本利一(訳)「法的倒産処理制度と新型コロナウイルス」阪法70巻2号(2020年7月)147頁)。David Skeel教授には、本研究に関連して、意見交換、情報の提供などサポートをいただいているところ、当該原稿では、コロナ禍による倒産裁判所の「医療崩壊」が問題とされ、このことをどのように回避するかが真摯に論じられていた。アメリカの裁判所が、債務者企業の過剰債務の圧縮のために、伝統的に有していた債務免責=権利変更の権限を巡る、行政機関との相克を検討したものであり、日本の法制度にも大いに参考になるものであった。また、本研究の目的と関連する、わが国の倒産法実務で生じている各論的な重要問題について、近時の重要判例(最二小判平成28・7・8、最三小判令和2・9・8)について、大阪弁護士会司法委員会「倒産法実務研究会」において、研究講演「倒産法における相殺権の規律――近時の重要判例を踏まえて」を行った。前者につき、松下淳一ほか編『倒産法判例百選[第6版]』「71 三者間相殺の可否」144頁-145頁(有斐閣、2021年1月)、後者は、『令和2年度重要判例解説』「8 請負人である破産者の支払停止前に締結された請負契約に基づく注文者の破産者に対する違約金債権による相殺」106頁-107頁(有斐閣、2021年4月)において、その成果が公表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、アメリカ法の沿革とそこで生じた種々の論点を踏まえつつ、現在の日本法の問題点を考究するものであるところ、今年度は、研究協力者の一人である、David Skeel教授より、新型コロナウイルスがアメリカの倒産裁判所にもたらす難問についてご教示をたまわり、その研究を進めることとなった。具体的には、メールによる意見交換を踏まえ、ブルッキングス研究所から2020年4月に公表された、同教授による「Bankruptcy and the coronavirus, ECONOMIC STUDIES AT BROOKINGS, April 2020.’」の論攷の翻訳権をたまわり、阪大法学において翻訳原稿を公表した。この点は、アメリカの倒産法理論と実務に強い影響を与えるだけでなく、日本でも起こりうることであり、本研究のテーマとの関係で、避けて通ることができない「現在問題」として浮上したため、この課題へのアプローチを急ぎ進める必要が生じた。また、コロナ禍における司法の役割について、大阪や東京の倒産弁護士らと非公式の研究会を複数回開催した。これは、倒産法実務家との協働を踏まえて行われたものであり、その日本法での成果を踏まえて、アメリカ合衆国の倒産実務家や研究者に対するインタビュー調査と意見交換を実施する予定であったところ、新型コロナウイルスを原因とする厄災により、このことを実現することがかなわなかった。こうして、研究にやや遅れが生じることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
倒産手続における裁判所の役割を論じるにあたり、倒産法実務上生じる種々の具体的な問題を手掛かりとすることを意識してきたところ、これまでの研究により、論じるべき現在問題を把握することができた。ところが、新型コロナ感染症による社会経済に対する深刻なインパクトを経験した今日、とりわけ、経済先進国における企業の事業再生が喫緊の課題となった。コロナ禍の企業破綻の特徴は、事業収益の回復がまったく予見できないところにある。政府による資金援助は、いずれ過剰な債務負担として立ち現れる。今こそ裁判所による債務免責=権利変更のスキームに期待が集まるところ、現状では、その効用を発揮できないとの指摘や、こうした役割を裁判所ではなく行政機関が担うべきだとの議論もある。本研究の目的を踏まえて考えれば、この問題を現状解決できるのは、債務の減免ができる裁判所の主宰する法的整理手続のみである。裁判所の機能を如何に保全し、かかる手続を活性化するかが、それぞれの国の社会経済にとってきわめて重要な課題として顕在化している。こうした重要な課題に対応するべく、倒産実務家の協力を得ながら日本の対応状況をフォローしていく。併せて、アメリカを中心としながら、イギリスなど注目にするべき国の理論研究者と交流しながら、それぞれの対応状況を整理し、あるべき裁判所の役割について、理論研究を進めていく。一方、理論研究の成果はもちろん、併せて、倒産実務家に対するインタビュー調査と意見交換の重要性は認識しており、そうした知見獲得のためのカンファレンスを行う必要性を認識している。もっとも、コロナ禍の影響から、現地での交流が難しくなる可能性が高く、その場合には、オンラインのミーティングなどを活用していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研費プロジェクトの最終的な調査のために、アメリカ合衆国に赴き、最終的な研究調査を目的として、彼の地の理論研究者の協力の下、2021年度中に、倒産裁判官や倒産弁護士らに対するインタビュー調査と意見交換のためのカンファレンスを実施することを予定していたところ、新型コロナウイルスの厄災により、渡米自体が不可能となり、調査自体の延期が不可避となった。また、Zoomなどを用いたWEBでのカンファレンスを検討したところ、現地の状況が想像以上に芳しくなく、協力を得ることができなかった。残額については、これまで検討した論点を踏まえて、アメリカ合衆国の研究者の協力を得ながら、倒産実務家に対する簡潔なインタビューを実施することを企図しているが、その謝金として使用する予定である。
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