本研究は、近時大幅に減少している再建型の法的整理事件(民事再生事件)の大幅な減少を受け、これまで十分には論じられてこなかった、法的整理手続における裁判所(司法権)の役割について、アメリカ法を基点とした比較法的視点から考究するものである。とくに、アメリカ法については、かかる論点に関する議論状況を歴史的視点から説き起こしつつ、現在生じている重要問題を検討することを企図している。 この研究の重要な構成要素の一つには、フィールドワークがあったのだけれども、コロナ禍によりその十分な実施ができたとはいえない点が悔やまれる。しかし、こうしたなかでも、大阪弁護士会司法委員会倒産法部会主催の研究会に顧問として参加を継続しつつ、法的整理手続における裁判所の役割について、とくに、倒産債権の優先的地位と劣後化の問題を対象に検討を行い、この成果は、東京大阪四会倒産法部シンポジウムでの基調講演に活かされ、その発表内容がNBL1149号・1150号に「倒産法における優先的地位と劣後化―債権者平等の意義を踏まえて(上)・(下)」として連載された。また、同四会シンポ「事業再生における清算価値保障原則に関連する諸問題~コロナ禍で顕在化した実務的問題を踏まえ~」において、総括コメント「清算価値保障原則の意義と役割」を担当した(2023年3月)。これは、法的整理と私的整理それぞれにおける同原則の適用関係を論じながら、裁判所の役割を考究したものである。なお、この成果はNBLに掲載予定である。 コロナ禍で滞っていたアメリカ法の調査についても、ペンシルバニア大学のDavid Skeel教授とメールにより定期的に意見交換をしながら、23年夏以降における、倒産裁判所における事後的な実態調査の実現に向け、調整を進めている。
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