研究課題/領域番号 |
16K03404
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
中西 正 同志社大学, 司法研究科, 教授 (10198145)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 事業再構築 / 事業再生 / 準則型私的整理 / 民事再生 / 事業性評価 |
研究実績の概要 |
民事再生における債務者の事業再構築のあり方を検討することが、本研究の目的であった。しかし、事業再構築や準則型私的整理の内容が明らかになるにつれ、(a)事業再構築を行うのに最適な手続は準則型私的整理である、(b)私的整理がうまくいかなかった場合に、これを民事再生が補完する、(c)民事再生における債務者の事業再構築は最後の手段であるというのが、「理想的な事業再生システム」であると、考えるに至った。アメリカ合衆国における私的整理(Out of Court Workout)と再生型法的倒産手続(Chapter 11)の関係も、以上の通りではないかと、推測される。 このように考えるに至った研究過程は、以下の通りである。 (1)中小企業金融円滑化法が機縁となって、金融機関は返済条件の緩和・一時停止を行うようになった。その結果、それまでなら債務不履行を起こして民事再生に入ってきた債務者は、私的整理に入ることになった(民事再生事件激減の理由)。 (2)事業再構築を行うには流動性確保が必要不可欠である。債務不履行を起こした債務者は、市場において文字どおり「倒産した」と評価され、顧客の支持も取引先の支持も得ることが極めて困難だからである(準則型私的整理が事業再構築を行うのに最適である理由)。準則型私的整理は現実にはどのように行われているのか、金融機関はどのような支援をしているのかも、実証的に研究した。 (3)民事再生は、事業譲渡・スポンサー型が中心となる。債務者の事業は新たな事業主・スポンサーの下で債務不履行のない状況の下で、事業再構築が行われる。そのプロセスは(2)と同様である。この点も実証的に研究した。 (4)準則型私的整理で全行同意が取れない時は、私的整理連続型民事再生(=私的整理の多数決)により、事業再生を遂げる。私的整理連続型民事再生については、実証面と理論面の双方から検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに行った研究成果は、「地域企業の経営改善・事業再生のために地域金融機関と法律家が果たす役割」事業再生と債権管理162号4-93頁に掲載されている(同29頁)。しかし、(a)研究業績の概要で述べた「理想的な事業再生システム」のまとめの論文が、未完成である。(b)アメリカ法の研究がまとまった成果とならなかった。以上のような遅延の理由は、以下の通りである。 (1)法律実務家が行なっている準則型私的整理の実態は、共同で本を執筆したり(多比羅 誠ほか『進め方がよくわかる私的整理・手続と実務』(2017年、第一法規))、共同研究の成果を座談会という形で発表したり(事業再生と債権管理162号30-40頁、41-48頁)することにより、明らかにできた。他方、金融機関が準則型私的整理においてどのような支援を行なっているのかは、実証主義的に研究するほかなかったので、難航した。金融機関に出向いて話を聴き、それを基に概念を組み立てて、金融機関の感想を聴き、さらに修正するの、連続であった。また、以上の成果を座談会において実名で報告してもらうことも、難航した。ここで多くの時間を使ったことが、「理想的な事業再生システム」のまとめの論文執筆が遅延した原因である。ただし、静岡銀行、広島銀行の皆様に、最大級の善意で協力して頂けたため、これまでに余り先例のない形の成果を上げることができた(事業再生と債権管理162号4-29頁、57-87頁、49-56頁)。 (2)本研究では、比較法は日本法の認識を基礎として行うことになる。ところが、我が国の私的整理と民事再生の関係の理解が、当初の理解から大きく揺れ動いたため、比較法のパートは不十分なままになってしまった。とりわけ、事業再構築はビジネス関係と位置付けられ、法律書では余り取り扱われていないので、難航した。
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今後の研究の推進方策 |
事業再生と債権管理162号に掲載した研究の総括として、現在、以下の骨子の論文を、執筆中である。 資金繰りに問題がなくても、債務者は必要に応じて事業再構築を試みるのが望ましい。しかし、債務者の財務状況に問題が生じた場合には、事業再構築が不可避となる。債務者の経営陣が信頼でき、金融支援として期限猶予のみが必要な場合(株主責任を取る必要のない場合)には、自主再生型の私的整理を行うことが合理的である。他方、債務者の経営陣が信頼できない場合、または金融支援として債権放棄が必要となる場合(株主責任を取る必要のある場合)には、事業譲渡・スポンサー型私的整理が行われる。事業譲渡先やスポンサーの選定手続には一定のルールが確立しているので、直ちに全金融機関の同意が成立するのは難いと予想される場合には、そのような手続の履践を前提に、私的整理連続型民事再生により事業譲渡先・スポンサーを選定するのも合理的である。他方、準則型私的整理には、①債務者に私的整理を強制できない、②全金融債権者の参加が必要である、③全金融債権者の同意がなければ成立しない、④商取引債務に債務不履行のないことが条件である等の、限界がある。民事再生は、このような限界をもつ私的整理を補足する役割を、果たすことができる。準則型私的整理において全金融機関の同意は得られないが、民事再生の可決要件は満たしている場合には、私的整理連続型民事再生により、事業再生を行うことができるし、準則型私的整理の進行中、債務者が商取引債務につきデフォルトを起こす可能性が生じた場合には、在来型民事再生により、事業再生を行うことができる、等々である。 本研究は、以上を以って完了としたい。なお、続編にあたる共同研究はすでにスタートしている。アメリカ合衆国連邦倒産法下の実務の実証的研究は、後日に期すことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度終了までに、本科研費の研究を総括する論文が書けないこと、研究期間の延長が必要となったことが明らかとなったため、支出を抑え、次年度用とした。 本年度は、本科研費の研究を総括する論文を執筆する(現在執筆中である)。そのための、研究会出席、情報収集に要する費用や、故障が多くなったモニターを買い換えるための費用として、残された額を出費する計画である。
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