研究課題/領域番号 |
16K03414
|
研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
深川 裕佳 東洋大学, 法学部, 教授 (10424780)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 電子マネー / 仮想通貨 / 相殺 / ネッティング / 決済 |
研究実績の概要 |
簡易な決済を行う仕組み(制度)をつくる,または,つくられた仕組みに加入する段階(決済制度への加入者を明らかにし,その仕組みに適用される規則を定める段階)において問題となる相殺契約は,どのような法的性質を有するものであろうか(深川裕佳「三者(多数者)間相殺と三角・多角取引」椿寿夫編『三角・多角取引と民法法理の深化(別冊NBLNo.161)』(商事法務,2016年10月)105-114頁)。 フランスの博士論文には,このような取引を「共同行為」によって説明するものがある。共同行為とは,複数の参加者が「共通の利益」を追求して一人の当事者としてする法律行為を指している。しかし,共同行為において参加者を一人の当事者に結び付ける「共通の利益」を持ち出すのみでは,参加者間の法律関係(特に,差額の支払い関係)について説明が不足しているように思われ,さらなる検討が必要になる(深川裕佳「多数当事者間相殺『契約』の法的性質――フランスにおける『共同的法律行為』説から得られる示唆」法政論集(名古屋大学)270号(2017年2月)115-129頁)。 他方,従来,日本では,このような相殺は「相殺契約」と呼ばれてきたものの,これを厳密な意味での「契約」とは称しにくいのではないかという問題がある。「相殺契約」と呼ばれてきたものの法的性質を検討すると,当事者の合意によって行われる相殺は,契約を含むより広義の概念として「合意または協定 (convention) 」として位置付けることがふさわしいものと考えられる。そうであっても,このような「合意または協定」を日本民法においてどのように位置づけるべきかというさらなる検討課題が残されることになる(深川裕佳「相殺契約は狭義の契約 (contrat) か,合意・協定 (convention) か?」東洋法学60巻2号(2016年12月)112-100頁)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,電子マネー・仮想通貨についての利用実態を調査し,立法化の進むEU法を比較研究の対象として,最終的には,「電子マネー・仮想通貨」に関する法改正・立法へ向けた提案を行うことを目指すものである。本年度は,研究の初年度であり,本研究の目的に照らして,その基礎となる「電子マネーや仮想通貨」の利用実態を調査することを予定していた。そこで,本年度に行ったのは,電子マネーや仮想通貨の実態に関する最新の情報を調査しながら,本研究において比較対象としているフランス法における議論を知るために,その文献資料を収集し分析することである。そこで明らかになった問題点の一つは,「電子マネー・仮想通貨」に関する法改正・立法へ向けた提案を行う前提として,資金決済に欠かすことのできない相殺(またはネッティング)の法的性質を検討する必要があるということであった。この問題を検討して,本年度は,後述の3つの論文および1つの研究ノートを公表した。そこで,研究計画はおおむね順調に進展しているものと考えられる。しかし,電子マネーや仮想通貨に関するフランス法での議論については,まだ,論文としてまとめるに至らなかったために,これは次年度以降に引き続き検討することにする。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を前提として,次年度は,二つの問題を明らかにするための研究を行う。一つは,簡易な決済を行う仕組みとしての相殺合意・協定をどのように理論的に位置づけることが可能であるかという問題を解明するために,引き続き,フランスでの議論を参考にして検討する。もう一つは,電子マネーや仮想通貨に関するフランス法での議論について検討し,そこから得られた示唆を論文としてまとめることである。
|