研究課題/領域番号 |
16K03416
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
菅 富美枝 法政大学, 経済学部, 教授 (50386380)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脆弱な消費者 / 誤認惹起 / 不招請勧誘 / 広告規制 / 2015年消費者権利法 / 状況・関係性の濫用 / 契約内容の透明性・顕著性 |
研究実績の概要 |
英国は、伝統的に、判断能力の不十分な成年者の行為能力(特に、契約締結能力)を制限するという法制度ーいわゆる制限行為能力制度ーを置いてこなかった。だが、これを背後から支えるものとして、判断能力の不十分な人々を含むすべての消費者に対して、誤認を惹起したり、即座に判断できない状況を濫用してはならないとして、広告規制、不招請勧誘規制をはじめとした様々な刑事規制法が用意されてきた。また、伝統的に、契約法の分野において、当事者間に存在する交渉力の格差を濫用して契約締結を促したと認定される場合に当該契約の有効性を否定する法理(「過度な影響力の行使」取消の法理)が発展してきた。さらに、2014年10月には、既述の刑事規制法の中に、契約の取消を含む民事救済規定が置かれた。こうした法制度の中には、EU法の影響を受けている部分と、一方で、「完全なる調和主義」の制約のもと、イギリス法独自のものとして発展してきた部分があると考えられる。 そこで、本年度は、同年6月23日の英国のEU離脱国民投票の結果を受けて、近い将来、イギリス消費者法が大きく変容する可能性を視野に入れ、EU法の影響がいわば「入れ子状態」になっている現行のイギリス消費者法制を分析し、イギリス法由来の部分とEU法による変容部分とを区別すべく分析を行った。 また、近年「脆弱な消費者」と定義される判断能力の不十分な人々を狙い撃ちにした曖昧広告や不招請勧誘を行う事業者の摘発と責任追及について、英国取引基準局の機能に関する調査研究を行った。調査の結果、悪質事業者の刑事責任追及の前段階として、被害者に対する代金返還や実質上の損害賠償に関する折衝が行われており、被害者救済を実現する社会体制が整っていることを見た。他方で、判断能力の不十分な人々に対して親族による任意後見が実施されていても、必ずしもそれが被害対策に資しているとは限らないことを認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究調査開始直後の平成28年6月23日に英国のEU離脱をめぐる国民投票が行われ、その後、離脱交渉権限の所在をめぐる司法上の争いを経て、ようやく平成29年3月29日、リスボン条約50条に基づき、離脱交渉が開始された。本研究は、英国の消費者法を主たる研究対象とするものであるため、英国のEU離脱が本研究に与える影響は不可避であることから、平成28年度は渡英聴取り調査を最小限に控え、文献調査を中心に実施するに留めた。
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今後の研究の推進方策 |
既述の通り、平成28年6月23日の英国のEU離脱国民投票を受け、本研究の主たる研究対象である英国消費者法の今後の動向が、未だ見えない状況にある。消費者法は、「完全なる調和主義」の下、英国法の中でも、特にEU法の影響を強く受けた分野であることから、BREXITが本研究に与える影響は不可避と思われる。そこで、平成29年3月29日に公式に離脱交渉が開始されたとはいえ、英国の「単一市場」へのアクセスの程度、及び、それと表裏一体の関係にある消費者法政策について、平成29年度中は未だ今後の展望が十分に見えてこないことが予想されることから、前年度同様、渡英聴取り調査を最小限に控え、平成30年度以降に集中的に行う計画である。よって、平成29年度は、前年度同様、文献調査を中心に実施する予定である。 研究成果発表としては、国内学会での報告、論文発表のほか、判断能力の不十分な消費者をめぐる現行の(EU法の影響を受けたままの)イギリス法の到達点を紹介すべく、図書の出版を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究調査開始直後の平成28年6月23日に英国のEU離脱をめぐる国民投票が行われ、その後、離脱交渉権限の所在をめぐる司法上の争いを経て、ようやく平成29年3月29日、リスボン条約50条に基づき、離脱交渉が開始された。本研究は、英国の消費者法を主たる研究対象とするものであるため、英国のEU離脱が本研究に与える影響は不可避であることから、平成28年度は渡英聴取り調査を最小限に控え、文献調査を中心に実施するに留めたため、本年度使用予定であった旅費が翌年度以降に繰り越される計画となった。
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次年度使用額の使用計画 |
既述の通り、平成28年6月23日の英国のEU離脱国民投票を受け、本研究の主たる研究対象である英国消費者法の今後の動向が、未だ見えない状況にある。消費者法は、「完全なる調和主義」の下、英国法の中でも、特にEU法の影響を強く受けた分野であることから、BREXITが本研究に与える影響は不可避と思われる。そこで、平成29年3月29日に公式に離脱交渉が開始されたとはいえ、英国の「単一市場」へのアクセスの程度、及び、それと表裏一体の関係にある消費者法政策について、平成29年度中は未だ今後の動向が見えてこないことが予想されることから、前年度同様、渡英聴取り調査を最小限に控え、平成30年度以降に集中的に行う計画である。よって、平成29年度は、前年度同様、文献調査を中心に実施する予定である。
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