研究課題/領域番号 |
16K03416
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
菅 富美枝 法政大学, 経済学部, 教授 (50386380)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 状況・関係性の濫用 / 脆弱な消費者 / 不公正な契約条項 / 行政的執行 / 消費者ADR / 包摂 |
研究実績の概要 |
2018年度は、国内学会報告(1回:日本消費者法学会)と論文発表(5本)、英国調査(2回)を実施することができた。 2018年9月に実施した現地調査では、英国のEU離脱の影響が今後の法学界にどのような影響を与えうるかについての、現地法学者・法実務家たちの率直な受け止め方を知ることができた。ただし、離脱交渉をめぐる政治的駆け引きの中にあって、イギリス法におけるEU法の位置づけといった大きな枠組みの問題については、確たる回答を得ることはできなかった。そのため、エネルギー・通信などの生活必需サービス契約における「乗り換え」に関する脆弱性に対するつけ込み問題への方策として、キャップ制の新設といった、比較的狭い射程の問題解決法(契約の自由ー特に、価格設定ーーへの介入という観点から、賛否両論あり)について、示唆を得るに留まった。 2018年10月から2019年2月にかけては、交渉力の弱い立場にある高齢者が引退後に入居する住宅(スペシャリスト・ハウジング)や、入所する介護施設をめぐって、業界内で繰り返し実践されてきた不公正な契約条項の問題(いわゆる、不意打ち条項、隠れた価格条項)に焦点を絞り、「競争及び市場局 (Competition and Market Authoreity: CMA)」が行政的執行権限を有する機関としてどのように取り組んできたかについて、最新情報を追った。 2019年3月に実施した現地調査では、英国のEU離脱交渉が暗礁に乗り上げていく中、あえて消費者ADR(Consumer ADR)の拡充に関するEU指令のイギリス社会への受容について、調査を行った。英国内において、ADR設置を事業者に義務づける動きが大きく強まっていることを確認することができた。特に、「司法へのアクセス」という考え方では不十分であり、「司法のデリバリー」こそが重要との主張から、日本法への示唆を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象としてきたイギリスのEU離脱問題が不透明な政治状況を受けて、特に、消費者法の分野で影響力を与えてきたEU指令の受容方針が見えない状況にあるため。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、2019年夏に、引き続き英国における現地調査を実施したいと考えている。特に、契約不履行が起こった場合の問題処理のあり方として、消費者ADRの推進・拡充をめぐる最新の動きを追いたい。現在、取引基準局インスティテュート (Charted Institute of Tradins Standards:CITS) と訪問日程について交渉中である。 第二に、イギリス契約法のテキストの翻訳作業を行い、市場取引の円滑化のみならず、公正な市場取引のあり方という観点に立って、イギリス契約法の基本原理と機能を分析し、その成果を日本社会に発信する。 第三に、ヨーロッパ法研究所(European Law Institute:ELI)年次学会に参加し、EU加盟国における共通の関心事項及び今後の発展可能性について、知見を得たい(例 AI導入が契約締結場面に与える影響)。
|
次年度使用額が生じた理由 |
【理由】研究調査対象国であるイギリスのEU離脱問題が暗礁に乗り上げ、先行きの見えない中、イギリス消費者法におけるEU法の受容方針がどのようになるのかも不透明であり、予定していた現地調査を短期間に留め、今後の成り行きを見守りながら、継続調査を随時実施することにしたため。 【使用計画】2019年度は、イギリス継続調査を8月末に実施し、また、9月には、ウィーンで開かれるヨーロッパ法研究所年次学会に参加する予定である。
|