本年度は、昨年度までに行った物権行為論とius ad rem論の分析を前提として、物権行為とius ad remの理論的関係について検討をくわえた。具体的には、意思と形式、物権と債権、および、履行請求権と損害賠償請求権の3つの分析基軸を設定した上で、分析を行った。 その結果、つぎの2つの解釈論上の帰結を得ることができた。すなわち、まず、日本法の解釈論として、有因的物権行為概念を認めて、二重譲渡における第三者の背信的悪意者性を認定するにあたっての判断要素とすることである。そして、ius ad remについて、本来であれば絶対効を有しないはずの権利を有する者に対して、第三者の悪意を前提として、その第三者に直接請求することを認めることの権利、と定義づけることである。その上で、二重譲渡における第一買主の保護の点において、物権行為概念とius ad rem概念には共通性があることが判明した。 これらの研究成果によって、日本法における背信的悪意者排除論について新たな知見を提供することができるとともに、より精緻な解釈論を展開することが可能となった。また、これまでの判例と通説に対する批判として、物権行為の無因性を認めることなく物権行為概念を肯定することの必要性を論証することができた。そして、これまでかならずしも明確ではなかったius ad rem概念について、歴史的な分析結果に基づいて明確に定義づけることによって、物権と債権の関係性やその異同について新たな視点を提示することができた。これにより、日本の民法典の体系に関する議論にも影響を与えることが可能となった。 本研究の成果については、各テーマに関する論文としてすでに随時公表されてきている。そして、それらを一書にまとめた『物権変動の法的構造』と題する研究書が、近日中に公刊されることになっている。
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