研究課題/領域番号 |
16K03421
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和田 宗久 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (60366987)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 不実開示 / 金融商品取引法 / 会社法 / 民事責任 / 課徴金 |
研究実績の概要 |
本研究は、証券市場において上場会社等が不実開示を行った際、そのことに対して課され得る刑事責任、行政処分、民事責任に関連する制度の関係性を明らかにするとともに、とくに法人としての上場会社やその役員等の民事責任に関する制度について、その制度設計のあり方、さらに、当該制度の解釈・運用のあり方を明らかにしていくことを目的とするものである。 平成29年度は、本研究の大きな柱の1つである比較法的な分析・検討の中でも、会社に対する不実開示責任の追及事例が圧倒的に多い、とくにアメリカ法の状況について分析を行った。具体的には、アメリカにおける証券クラスアクションの提起やその後の和解の状況、そして、州会社法に基づく役員責任追及訴訟の提起状況等について分析を行い、提起件数としては前者の方が圧倒的に多いことを確認した。 また、平成29年度は、責任追及事例の数自体は少ないものの、様々な議論のなされているイギリスにおける、とくに取締役等の会社役員の責任とD&O保険(役員賠償責任保険)に関する議論の状況についても調査を行った。 さらに、同年度には、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会において次期の会社法改正に関する検討がなされ、そこにおいて本研究とも密接な関連性があり、アメリカ法において既に導入され、一定の運用の実績もみられる会社補償(indemnification)やD&O保険に関連する規定の整備についても議論がなされていたことから、本研究実施者による論文「会社法改正と会社補償・D&O保険法制のあるべき姿」(企業会計69巻10号115ー122頁)に中で、本研究による成果の一部をベースとした自らの意見を公表し、とくに部会における検討の途上では消極的な意見の多かった、会社補償(indemnification)およびD&O保険に関する情報開示の重要性を説いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示したように、平成29年度は、主にアメリカにおける証券クラスアクションの提起やその後の和解の状況、および、州会社法に基づく役員責任追及訴訟の提起状況等について分析を行ったが、アメリカでは訴訟の提起件数としては前者の証券クラスアクションの方が圧倒的に多いことを確認した。そのうえで、証券クラスアクションは、D&O保険およびそれが付保されていることを前提に訴訟提起を行う原告側代理人弁護士の存在がその提起件数が多いことと密接に関連しており、証券関連訴訟に対応する保険が販売自体はなされているものの、実際にはほとんど付保されていないわが国では、単純にアメリカの制度との比較を行うことや、同国からの関連制度の導入を議論することが適切ではないことなどを別途業績として挙げている論文等で指摘した。 アメリカにおける証券クラスアクションは、D&O保険およびそれが付保されていることを前提に訴訟提起を行う原告側代理人弁護士の存在がその提起件数が多いことと密接に関連しており、証券関連訴訟に対応する保険が販売自体はなされているものの、実際にはほとんど付保されていないわが国においては、単純にアメリカの制度との比較を行うことや、同国からの関連制度の導入を議論することが適切ではないことなどを別途業績として挙げている論文等で指摘した。 平成29年度は、全体として、アメリカやイギリスの法制度等に関する比較法的研究を行うための調査・分析はある程度行えることができたと考えるが、本研究の目的を達するうえでは、まだ調査や制度分析が不十分な点もあり、平成30年度も同様の調査・分析を継続したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、これまでのところ、主にアメリカやイギリスにおける比較法的な分析を行い、わが国の法制度に対する若干のフィードバックとサジェスチョンを行ってきた。ただ、不実開示が行われた場合の、法人としての上場会社やその役員等に対して課され得る民事責任に関する制度等の具体的なあり方についてはまだ内容の詰まった提言等を示すまでには至っていない。本研究の最終年度である平成30年度においては、平成29年度までに行ってきた比較法的な分析を継続していくことに加え、これまでの研究成果について研究会での報告等が予定されてることもあり、そうした機会にこれまでの研究と平成30年度に行う研究成果を発表し、他の研究者等からのフィードバックも受けながら、より具体的かつ内容の詰まった提言に結びくように研究を推進してきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた通りにイギリス・アメリカにおける調査に行くことができなかったため。 平成30年度については、9月にはイギリス・ロンドンにて調査・研究を行う予定である。具体的には、FRC(Financial Reporting Council)等の関連機関におけるインタビューや、ロンドン大学において資料集等を行う予定である。
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