研究課題/領域番号 |
16K03422
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田山 輝明 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 名誉教授 (30063762)
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研究分担者 |
志村 武 関東学院大学, 法学部, 教授 (80257188)
黒田 美亜紀 明治学院大学, 法学部, 教授 (60350419)
藤巻 梓 国士舘大学, 法学部, 教授 (70453983)
青木 仁美 法政大学, 法学部, 特別研究員 (80612291)
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 准教授 (90633470)
足立 祐一 帝京大学, 法学部, 助教 (80734714)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 成年者保護協会 / クリアリング / 障害者権利条約 / 障害者の参加 / 障害者の自己決定 / 医療代諾権 / 未成年後見 / 児童虐待 |
研究実績の概要 |
公開講演会「成年者保護法に見るオーストリアとヨーロッパの発展」及び「成年者保護協会による「解明」の新しい形態――クリアリング」はいずれも、インスブルック大学のガナー教授にお願いした。講演内容によれば、成年者保護法の内容の変化・発展のみならず、その名称も後見から「成年者保護」に変わりつつあり、ヨーロッパにおける成年後見制度の発展状況を認識することができた。障害者権利条約との関連もあり、高齢者を含む成年者一般の保護が問題にされるようになってきたからである。成年者保護協会によるクリアリングは、日本における社協の裁判所への協力を考える際に大いに参考になる先進的事例が含まれていた。「ドイツ、障害者の参加と自己決定法」(翻訳)は、国連の障害者権利条約の批准が当該国家の関係法にどのような広がりをもって影響を与えるか、を考える際に大いに参考になった。すなわち、障害者権利条約と成年後見制度の直接的関連に限らず、社会福祉法制全体の中で、成年後見法を位置付ける必要があることが明確になった。 さらに、アメリカやオーストラリア、シンガポール等の広義の英法系に属する国における成年後見制度の研究も行った。判断能力との関係が研究の中心であった。 後見人に対する監督については、裁判所のみに委ねるのではなく、成年者保護協会等の協力を得るべきであることが明らかになった。日本でも、各地域における中核機関(成年後見センター等)の役割が重要になってきているので、研究対象としても注目してきた。今後は、社協の重要な役割の一つとして検討すべきであると思われる。 後見人の医療代諾権については、引き続き、最近法改正を経験しているドイツやオーストリア等について検討してきた。 未成年後見人についても、児相との関係や児童虐待問題との関連で「あるべき姿」等について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オーストリアの成年者保護協会の機能等については、かなり明確になってきたが、成年者保護人の権限と「患者処分証書」(リヴィングウイル)との関連等、新たな問題が出てきている。同国では患者処分証書に関する法律の改正もあったので、それをフォローしなければならない。これに関連して、医療に関する後見人の代諾については、改正法の内容を明確にして、議論しなければならない。この分野は、本人意思の尊重が特別に重視されなければならいので、社会的仕組みが重要であると同時に、それに関する社会的コンセンサスとの兼ね合いが重要である。医療関係の日本人の研究協力者が得られなかったため、進展がやや遅れている。 諸外国においても、後見人の報酬については、大きな変化はないが、修正をフォローしておく必要がある。日本でも本人が年金生活の高齢者である場合や生活保護受給者の場合の報酬の公的補助の問題を含めて検討しなければならない。社会保障の領域に踏み込むことになるため、ここでも研究協力者の確保が十分でなかった。 なお、オーストリアなどでは、障害者権利条約との関係もあり、ソーシャルワーカーの機能を重視することによって、司法領域の成年者保護人の利用を減少させるべきであるとの意見が注目されているので、その現実性についても検討が必要である。日本の問題としては、社協との連携、特に日常生活自立支援事業との関連などを検討しており、順調に進んでいる。 以上のように、ほぼ予定の方向に進んでいるが、諸外国ではこの分野での法律改正も進んでいるので、それに合わせた研究と議論を行わなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
成年後見人のあり方について本格的な研究を行うべきであると考えている。親族後見人については、その件数は現在減少の一途をたどっているが、最高裁判所も方針を変更し、親族後見人を重視する方向に舵を切ったようであるから、不正行為の防止策を含めてさらなる研究が必要である。その際、不正行為の防止にのみ目を向けるのではなく、親族の愛情を前提とした「後見」の実現という観点も重要である。 しかし、少子・高齢社会にあっては、後見人の適任者を親族の中から探すことは必ずしも容易ではない。そこで、第三者後見人(市民後見人と専門職後見人を含む)の活用について検討しなければならないが、その場合の問題点の一つが報酬である。日本の民法では、裁判所が本人の財産から一定の報酬を支払うようになっているが、そろそろ諸外国に倣って、報酬額に関する特別法による法規制を検討してもよいのではないだろうか。その意味でも、先進各国における後見人の報酬規制のあり方についてまさに比較法的に検討する必要がある。その際、費用と報酬を明確に区別する必要があるが、まずは費用について公的負担を検討すべきである。 ソーシャルワーカーを重視する場合には、裁判所が直接関与することは難しいので、社会福祉協議会等との連携が重要な課題となる。その際、既存の制度との関係では、日常生活自立支援事業が最も重要なシステムである。これは、広義の成年後見制度との関係で、特に「補助」との関連(利用者の重複)が重要である。その活用等を通じて、障害者権利条約の趣旨に添った支援策を検討しなければならない。既存の研究との関連では、オーストリアの「クリアリング」(成年者保護協会)の機能に関する研究が、社協の果たすべき役割との関係で、さらに深められなければならない。
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次年度使用額が生じた理由 |
国連の障害者権利条約に対応するオーストリアの改革を中心に研究してきたが、ドイツでは、2018年に「裁判所に任命された法定代理人/ドイツ世話制度:品質 要件と実施状況」が公表され、これを受けて、同政府において「世話法における自己決定と質」と題した改革が開始された。我が国の成年後見法制に最も関連の深いドイツにおいて現行法の改正が予想されるので、これを至急に調査・検討する必要がある。また、オーストリアの「患者処分証書」に関する法律改正があったので、医療代諾権との関連を含めて、検討が必要となった。 これらの調査・資料収集に充てる。
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