研究課題/領域番号 |
16K03423
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本間 靖規 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (50133690)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家事債務 / 強制執行 / 面会交流 / 子の引渡し / 子の意見表明権 / 子の最善の利益保護 / 手続保障 / 間接強制 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、本研究の2年目にあたるので、1年目に行った資料収集や外国研究所でのインタビュー調査の成果を踏まえて、本研究の課題テーマに関する中間報告的論文を作成することを心がけた。その結果、狭い意味での本テーマに関する1本と広い意味でのすなわち債務名義形成手続としての家事訴訟ならびに家事非訟事件に関する論文3本の計4本を公表することができた。もっとも前者は、比較法的研究という基礎研究に属するものであり、本研究の最終年度にあたる平成30年度における日本法の立法論、解釈論の展開のための経験知の蓄積を意味する。具体的には、日本の執行法研究に大きな影響を与えてきたドイツの家事債権執行の構造を探求するものであった。その結果、法治国家的色彩が色濃く細かな点まで条文に落とし込むドイツの家族事件ならびに家事非訟事件法の規定とその解釈は、日本の立法論、解釈論に非常に参考になることが分かった。今後は、引き続きドイツの学説の展開状況ならびに立法から10年経ったところで行われた、検証報告などを読み込んで、ドイツ法の施行状況を追跡するつもりである。 なお平成29年度の成果のうち、特に家事債務の強制執行のあり方については、「家事債務の強制執行」と題して、2017年11月29日に龍谷大学法学会で報告した。また「子の引渡しの強制執行」と題して、2018年3月20日に国立台湾大学法学部において講演を行った。後者においては、国立台湾大学の学生、大学院生のみならず民法、民事訴訟法の教員が多数参加し、かなり活発な討論が行われ、台湾の法律並びに実務の状況を知ることができた。これも比較法的研究の蓄積となったことは意味深いと考える。 平成29年度は課題に関する論文4本、口頭報告(講演を含む)2本と実績を積むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は研究2年目に当たるが、1年目の研究の成果を確実にあげて、終了年度である3年目の研究完成に向けての着実な実績へとつなぐ重要な年に当たる。その意味で、1年目で収集した資料(インタビュー調査の結果を含む)を使い、3年目への基礎となる実績を積むことが要求される。その意味で、前述のとおり、論文4本、口頭による研究報告2本を積み上げることができたのは、研究中間年としては、まずまずの成果といえる。ただ、平成29年8月に行われたフランス法系国(具体的には、ルクセンブルク、スイス)での資料収集(インタビュー調査を含む)の成果を論文の一部でしか使えていないということもあり、100%の成果ということはできない。その意味で、実績はあげたものの当初の計画以上の成果があったということはできず、「おおむね順調」という成果区分に当たるものと判断した次第である。 本研究の基礎をなす比較法的研究には残された課題が存在する。まずフランス法系の法制度の深化をはかること、英米の研究、特に裁判所侮辱(contempt of court)についての研究が重要である。後者はドイツ法系においては、秩序措置(Ordnungsmassnahme, Ordnungsmittel)という形で同様のものが存在するが、フランス法系にはこれがなく、その代わりに刑法による処理に委ねられている。日本もフランス法系と同じくこの種の制度を持たず、子の引渡の執行においては最終的には、人身保護請求を使わざるを得ない状況がある。これを解消するための制度をどのように仕組むかを考えるに当たって、なお実務における状況の知見を含めた比較法的研究を積み重ねる必要を感じている。その意味において、一応の成果をあげたとはいえ、途半ばという状況にあることもおおむね順調という判断に含まれている。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、現在まで比較法的研究としては、ドイツ法における家事債務の強制執行制度の法構造を明らかにするところまで研究を進めることができた。今後の研究の推進方策としては、まず第1に、比較法的研究の知見を広げること具体的には、フランス法系の研究の深化、英米法の研究である。その点で今年は家事事件における紛争解決手続で成果をあげているオーストラリアでの実態調査を予定している。また、現在ユニドロアにおいて、ヨーロッパ民事執行法に関するPrinciples作成のプロジェクトが立ち上げられ、そのたたき台としての研究が報告されている(ドイツ・フライブルク大学のシュトゥルナー教授の手になるもの)。これらを手がかりにヨーロッパ法研究を進めていきたい。シュトゥルナー教授は、本研究の研究支援者であり、研究の便宜やアドバイスをつねに惜しまず提供してくれている。その意味で再度、ドイツ・フライブルクの研究所を訪れて、成果報告を行う一方、シュトゥルナー教授のみならず、ブルンス教授、ライポルト教授などとも学術交流をするつもりである。 平成30年度は研究最終年度に当たる。したがって当初の予定通り、研究成果としての業績を平成29年度と同様にあげることが目指される。現在、民事執行法の改正作業が行われているところであるが、その議論の重要部分を子の引渡の執行が占めている。これに役立つような比較法的研究や日本の立法への提言を行うことを目指している。またそのためにはどうしても実務の動向を比較することが必要である。ドイツで近時出された、家事事件手続法に関する施行の検証がこのために役立つと思われることからその紹介等を含めた研究を進めようと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
外国での資料調査によって知った文献のコピー費をとっておいたところ、調査をした研究所の厚意により、その支出の必要がなくなったため他の文献の購入費に充てようと思ったが、それには不足していることが判明したことが残額が生じた理由である。これについては、来年度の予算と合算して文献購入を行うことを予定している。
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