家事債務の執行方法に関する研究については、民事執行法の立法作業が終わり、すでに改正法が成立している状況である。もっとも立法は主として養育費等の取立のための第三者照会制度の新設と子の引渡し執行を念頭に置いての改正にとどまっているが、そのほかにも面会交流の執行のあり方等の重要問題があったはずである。本研究は、本来は、立法の議論に活かすべく家事債務の執行のあり方全般を検討することを目指して進めたものである。まず債務名義作成段階における当事者の手続保障のあり方を検討し、いくつかの論考を仕上げた(「家事事件手続法の意義と課題」2017年、「家事調停と手続保障」2017年、「人事訴訟における職権探知主義と自己決定権」2018年)。そのうえで家事債務の執行問題についての論考を公刊した(「家事債務の強制執行」2018年)。また2018年3月には、台湾調査を兼ねて国立台湾大学で「子供の引渡しならびに面会交流の強制執行」と題して教員、院生を対象に講演を行い、台湾法との比較研究を行った。これらにより、日本の強制執行法に欠けているものを抽出して、立法に資するための提案を行ったが結局、日本の立法は漸進にとどまったままになったため、多少忸怩たるものを覚えることとなった。今後公刊されるものとして、「家事事件手続の基礎理論」「身分訴訟における判決効拡張再論」があり、いずれも単行本の一部をなす論文で現在は校正の段階にある。 改正民事執行法の施行後も特に実効的な執行方法(対人執行の可能性を含む)についての提言を続け、次の改正につなげる資料としたいと考えている。また当初目指した家事強制執行法の制定に向けての作業を今後も続けていく予定である。 本研究のうち比較法的部分については、主としてドイツ・フライブルク大学を拠点として行った。同研究所は今後とも支援の意向を示してくれている。
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