研究課題/領域番号 |
16K03425
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
吉垣 実 愛知大学, 法学部, 教授 (60340585)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 差止命令 / インジャンクション / 予備的差止命令 / 仮制止命令 / 仮処分命令手続 |
研究実績の概要 |
本研究は、保全命令に依る救済範囲を解釈論によって拡張し、迅速な紛争解決制度の構築を図ることを目的としている。アメリカの差止命令制度を参考に検討を進めるものである。平成28年度は、予備的差止命令の研究(予備的差止命令手続の申立てと審理、迅速化されたディスカバリー、証拠の提出、証明責任、ヒアリング、本案審理との併合、命令、担保、上訴、裁判所侮辱)をふまえ、仮制止命令の手続について検討した。仮制止命令手続は、時として相手方への通知なく一方的に発せられ、裁判所が予備的差止命令の申立てを審理するまで限定して認められる、短期の差止命令である。予備的差止命令によっては急迫の被害に対応できない場合に利用される。 成果として、仮制止命令について、「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続(6) ―わが国の仮処分命令手続への示唆―」『法経論集』209号 愛知大学法学会 53頁―76頁、「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続(7) ―わが国の仮処分命令手続への示唆―」『法経論集』210号 愛知大学法学会 1頁―25頁を発表した。具体的には、概説、発令要件、審理前手続(申立て、通知、迅速化されたディスカバリー)、立証活動と審理、命令(認否、内容、効力、予備的差止命令の申立て、取消し、変更)、上訴について検討した。 仮制止命令について、研究者の視点から詳しく検討されたものは、これまで見当たらなかったように思われる。上記の論文は、仮制止命令手続を説明したものとして資料価値もあるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備的差止命令について、これまで、予備的差止命令手続の申立てと審理、迅速化されたディスカバリー、証拠の提出、証明責任、ヒアリング、本案審理との併合、命令、担保、上訴、裁判所侮辱等について研究してきた。これらをふまえ平成28年度は、仮制止命令について研究した。具体的には、仮制止命令の概略、発令要件、審理前手続(申立て、通知、迅速化されたディスカバリー)、立証活動と審理、命令(認否、内容、効力)、予備的差止命令の申立て、仮制止命令の取消し、変更、上訴を検討し、それを勤務先大学の紀要に発表した(以下記載)。 平成29年度は当初の計画の通り、法域(各連邦控訴裁判所)や事件類型によって予備的差止命令及び仮制止命令の発令の判断に違いがあるのかを検討する。予備的差止命令発令の為の4要件の相互関係・判断について、合衆国最高裁判所の解釈は必ずしもはっきりせず、各連邦控訴裁判所間でも解釈は分かれている。1つの要件の立証が他の要件の立証に影響するかについて、順次アプローチと比較衡量アプローチ・スライド基準とに分かれる。後者の場合、例え1つの要件の立証が弱くても、他の要件の立証から状況を認定できれば、それで救済を認めることができる。かかるアプローチはどのような場面で機能するのかを明らかにしたい。法域のみならず紛争類型・事件類型ごとに検討する。 現時点では、平成29年度に予定する研究の予備研究は終了している。よって本研究は、おおむね順調に進展していると考える。仮制止命令について、「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続(6)―わが国の仮処分命令手続への示唆―」『法経論集』209号愛知大学法学会53頁―76頁、「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続(7) ―わが国の仮処分命令手続への示唆―」『法経論集』210号愛知大学法学会1頁―25頁を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
予備的差止命令および仮制止命令の判断につき、法域(各連邦控訴裁判所)や事件類型によってどの程度の違いがあるのかを検討する。予備的差止命令発令のための4要件の相互関係・判断については、合衆国最高裁判所の解釈も必ずしもはっきりせず、各連邦控訴裁判所の間でも解釈は分かれている。ひとつの要件の立証が他の要件の立証に影響するかについて、順次アプローチと比較衡量アプローチ・スライド基準とに分かれる。後者の場合、たとえ1つの要件の立証が弱くても、他の要件の立証から状況を認定できるのであれば、それで救済を認めることができる。かかるアプローチはどのような場面で機能するのかを明らかにしたい。法域のみならず紛争類型・事件類型ごとに検討する。この作業段階においては、法域におけるヒアリングやインタビューが必要となる。アメリカ合衆国はもとより、イギリスや事例に関係する中南米の裁判官等に対するインタビューを積極的に行う予定である。 上記の研究を踏まえ、市民社会および取引社会のニーズに対応し得る仮処分命令手続の在り方についての論文を発表する。被保全権利と保全の必要性の審理を柔軟に行うことができれば、仮処分による救済範囲の拡張が可能となる。わが国の商事仮処分事例の中には、両要件を明確に区別して審理しないケースが散見される。かかる事例は紛争解決事例として評価できる。わが国の事例やアメリカの議論をふまえ、解釈による仮処分の紛争解決機能を提示し、論文発表する。発表先は学術論文(勤務先の紀要や商業雑誌)が主である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の準備作業においては、法域におけるヒアリングやインタビューが必要となる。アメリカ合衆国はもとより、イギリスや事例に関係する中南米の裁判官等に対するインタビューを積極的に行う予定である。平成28年度にこの一部を行う予定であったが、可能な限り文献研究を行ったうえでインタビューや調査を行った方が有益である事、また、2016年世界訴訟法学会(IAPL)は、南米の地で開催されたが、治安上の問題から、参加を差し控えた。2017年度は、天津で開催される予定であるので、参加したいと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度に差し控えた世界訴訟法学会等の海外出張旅費に充てる。
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