研究課題
アメリカの中間的差止命令を認める4要件の関係を明らかにし、わが国の仮の地位を定める仮処分命令の実務への示唆を検討した。4要件の関係は、結局のところ、(原告側の回復不能の被害)×(原告側の本案勝訴可能性)±(公益)>(被告側の回復不能の被害)×(被告の本案勝訴の可能性)と定式化できるように思われる。原告側の回復不能の損害は、比較衡量の一要素であると同時に、中間的差止命令手続を利用するための前提要件でもある。中間的手続は、事案により、緊急に相手方の処分を停止させる形態(財産の凍結等)、本案判決まで当事者の利益配分を暫定的に定める形態(土地の通行等)、時間や費用の関係上本案手続が全く不適当であるため非公式の簡易手続として中間的手続を利用する形態(株主名簿閲覧等)などがあるが、当該事案がどの形態に近いのかにより、上記の定式が修正される可能性がある。非公式の簡易手続として利用する場合、回復不能の被害の要件は軽く、本案勝訴可能性の要件は重くなろう。本案勝訴の見込みは、被保全権利と同性質のものであり、回復不能の被害、比較衡量は保全の必要性と同様であるとみることができる。わが国の実務は、被保全権利と保全の必要性の二要件を分別し、被保全権利に重点を置きつつ、保全の必要性についても厳格に判断しており、両要件が補完しあっているとは考えていない。しかし、これは両要件の審理の硬直化につながることになり、妥当ではない。アメリカの実務は、わが国の二要件に相当する要件との間に相関関係を認め、事案に応じて各要件を調整して判断している。アメリカの場合、比較衡量を重視しており、原告側の回復不能の損害は、比較衡量の一要素であると同時に、中間的差止命令手続を利用するための前提要件(訴えの利益的なもの)でもある。解釈論としてアメリカの議論が参考になるように思われる。
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『民事手続法の発展』加藤哲夫先生古稀記念論集 成文堂
巻: 1 ページ: 325-344
XVI world Congress on Procedural Law Selected Papers for Session 5.
巻: Session 5 ページ: 182-204