本研究は、①医療政策からの要請たる後発医薬品利用の促進と新薬開発イノヴェーション促進の調和点を実現する知的財産法制の制度設計論の模索、②パーソナライズ医療(個別化医療)分野におけるイノヴェーションへ向けた知的財産法制の理論的課題の解明と制度設計における検討項目の提示、③医薬医療分野における特許権等の知的財産権行使に伴う医療活動に対する阻害要因に対する理論的・制度的対応、という各事項について理論的観点から総合的・統合的な検討を行って、医療政策及び医療イノヴェーションとの調和的発展を指向した知的財産法制に向けた一定の結論及び将来的方向性を導出することを目的とする。 令和元年度は、平成28年度、29年度、30年度から継続して行ってきた、資料分析と検討項目の整理を踏まえ、各検討項目に関する研究取りまとめを中心に行うと共に、これまでの研究内容を総括した研究を行った。 上記①については、前年度から継続して行っている医薬用途発明の特許法による保護を巡って、欧州各国における第二医薬用途特許クレームの権利範囲の解釈に係る議論の調査を踏まえて、日本法における固有の解釈論と制度設計の可能性を中心とした研究を重点的に行って、一定の方向性の見解を得た。上記②については、パーソナライズ医療の基礎となる患者の医療データの収集・利用と経済的価値の配分という問題につき研究を行い、既存の個人情報法保護法制と異なる制度的枠組みの可能性という方向性の見解を得るとともに、昨今目覚ましい発展を遂げている機械学習・深層学習技術を中心とするAI(人工知能)を活用した医療イノヴェーションへの知的財産法による保護と課題について重点的に取り組んだ。上記③については、医療関連特許の権利制限に加えて、商標権や不正競争防止法等における権利行使・適用除外の範囲の拡張と薬機法上の規制との調和についての制度的検討の必要性が明らかとなった。
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