研究課題/領域番号 |
16K03433
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
田淵 エルガ (田渕) 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (00759631)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 著作権 / 拡大集中許諾制度 / 権利制限規定 / フェア・ユース |
研究実績の概要 |
初年度は米国における判例研究を中心に、拡大集中許諾(ECL)制度の可能性に関する考察を行った。 ECL制度を最初に導入した北欧諸国においては、学校における著作物の教育利用にこの制度が活用されている。多くの国では、著作物の学校教育利用について権利制限規定が設けられており、一定の要件のもとに権利者の許諾なく利用できるが、一定の要件を超える利用については許諾(ライセンス)が必要となっている。北欧諸国においては、許諾が必要な部分も含めて、学校教育における円滑な利用を可能とする方策としてECL制度が導入されている。 一方、米国においては、大学教育と関わる著作物の利用について、権利制限規定であるフェア・ユースの対象として自由に利用することができるのか、あるいは許諾が必要な利用行為であるかを争う、複数の裁判事例がある。米国におけるECL制度導入に関する検討過程において、この制度を導入すると元来フェア・ユースとして認められる可能性がある行為についてまでリスク回避のために許諾料を支払う方向に誘引する可能性があるとして懸念を表明する意見が相次いだ。ECL制度は、権利制限規定により無許諾での利用が認められる利用行為と関わりの深い領域で導入される傾向がある。 以上を踏まえ、著作物の利用行為のうち、フェア・ユースとして無許諾での利用が認められるものと、ライセンスが必要なものとの関係について、考察する裁判例の一つとして、米ジョージア州立大学の電子リザーブ訴訟を選び、「大学における著作物の利用とフェア・ユース―米ジョージア州立大学の電子リザーブ訴訟―」(横浜法学 2017年3月)と題した論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米国の判例研究を通じて、権利制限規定の対象となる利用行為と許諾が必要な利用行為の関係に関する考察を深めることができた。これは、拡大集中許諾制度の導入根拠に関する考察を行う上で必要なものである。米国判例研究に思いのほか時間がとられたため実施できなかった比較法的分析については、平成29年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
権利制限規定の対象となる利用行為と許諾(ライセンス)が必要な利用行為の関係について、米国の判例研究をもとにさらに考察を深める。その上で、eラーニングの普及等により、電子化が進む著作物の教育利用を対象に、円滑な利用を可能とする方策として、権利制限規定による対応、個別許諾や集中管理による許諾、及び拡大集中許諾(ECL)制度のそれぞれの利点や課題について、比較法的手法を用いつつ考察する。 具体的には、米国については、一般的な権利制限規定であるフェア・ユースとライセンシング体制の関係について整理する。 我が国や欧州大陸諸国については、教育を対象とした個別権利制限規定について整理する。その際、許諾が必要な利用行為を対象とした集中管理体制の有無や、権利者への補償金の支払いの有無の影響についても整理する。 英国については、個別の権利制限規定により許容される行為でも、ライセンス契約により利用可能である場合は、ライセンス契約による利用が権利制限規定に優先するとされている。さらに、ECL制度も近年、導入されたことから、別途、考察を行う。 最後に、北欧諸国における著作物等の教育利用を対象とした権利制限規定とECL制度の関係を整理する。その際、特に電子化等の今日的課題にECL制度がどのように対応しているかについて焦点をあてる。 以上を踏まえて比較法的分析を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に実施した判例研究について、必要な文献等の多くを所属先の大学が契約するデータベースや図書館、他大学からの貸借により、入手することができたため。また、米国出張を、学会参加と合わせて、平成29年4月に実施したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に米国出張及び欧州出張を実施する。また必要に応じて文献を購入する。
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