研究課題/領域番号 |
16K03434
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
及川 敬貴 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (90341057)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境配慮義務 / 環境法化 / 生物多様性 / 生態系サービス |
研究実績の概要 |
平成29年度は、法制度の「グリーン化」が、自然からの恵み、いわゆる生態系サービスの規範化と重なることに注目し、かかる規範化が法制度の平面でどのようになされているのか(および、なされてきたのか)を中心とする調査・検討を実施した。具体的には、生態系サービスなる概念の通用度が高まる一方で、わが国の法律が、それに対してどのような言及をしているのかはよくわかっていないことを踏まえ、法令データ提供システムを利用して網羅的な調査を行ったものである。 その結果、(1)生態系サービスの趣旨が「環境の恵沢」と「多面的機能」という文言に置き換えられて、この国のルール(規範)となってきた経緯や「持続可能な発展」等の他の基本概念との法令上の関係等が浮かび上がってきた。また、(2)わが国の現行法律中には、生態系サービスに関連すると考えられる膨大な数の言及がある一方で、供給・調整・文化的サービスそれぞれに均一な言及がなされているわけではない実状も確認することができた。 生態系サービスは一般に、「説明概念」として通用しているが、それだけではなく、上記の(1)(2)のような特徴を備えた「法規範としての生態系サービス」としても存在していることを認識し、その中身をより豊かにしていくことが、持続可能な社会の実現につながると考えられる。 なお、かかる調査・検討結果の一部は、平成30年度中に日本評論社から公刊予定の学術書の一章にとり入れられることが決定しており、現在、同社において初校作成作業が進んでいる。加えて、平成29年度には、「多面的機能」の読み方が問題になった裁判例(札幌地判平成29年5月22日)の評釈を執筆し、その読み方についての簡単な検討を実施することもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)日本の法律の平面において、生態系サービスの定義は一つの文言の下で単線的な形での発展をみたわけではないことを初めて検証できたためである。少なくともそれは二つの文言の下で発展をみた 。「環境の恵沢」の維持は、法律上の基本理念の一つ(環境基本法3条)として位置づけられ、かつ、「持続可能な発展」原則(環境基本法4条)とのリンクを強めながら、現在に至っている(生物多様性基本法前文および2条)。これに対して、産業関連法律群では、「多面的機能」という文言が用いられてきた。留意するべきは、この文言が、供給サービスを重視する(ことによって農林水産業を保護する)ための道具概念として、それらの法律群に書き込まれてきたと考えられる点である。「多面的機能」としての生態系サービスについては、サービス間の関係性が歪に設定されがちであること、ならびに、生物多様性そのものや「持続可能な発展」原則との関係性が(少なくとも法律の規定上は)希薄なことがうかがわれた。 (2)「多面的機能」がキーワードとなった、裁判例(札幌地判平成29年5月22日)の評釈を公刊することができたためである。 (3)(1)の成果の一部を、平成30年度中に学術書として公刊(日本評論社より出版)し、研究成果を広く社会に発信できることが確実となったためである。当該の学術書の名称は「持続可能性と Well-Being:4つの資本概念とその限界」となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、補足調査と成果のまとめを行う。具体的には、
1)法規範としての生態系サービスについて、補足の調査・検討を行い、平成30年度中に公刊予定の拙稿(前述の学術書「持続可能性と Well-Being:4つの資本概念とその限界」の一章として掲載予定のもの。脱稿済み。)の内容を改善する。
2)森・川・海の管理に関する法政策事例について、実務家等へのインタビュー調査を実施し、グリーン化した法令の活用可能性とその限界とを探る。考察対象事例としては、①三重県志摩市の里海管理政策と②沖縄県沖縄市の泡瀬干潟訴訟を取り上げる。①については、地域で当該政策を推進するキーパーソンである高山進氏(三重大学名誉教授)へのインタビューを予定している。その際のポイントは、グリーン化した国の法令が地域の里海の統合的な管理にどのように影響を及ぼしうるか、である。②については、第二次訴訟の控訴審判決が下されたことを踏まえ、当該判決について、グリーン化の初期の事例であると考えられる公有水面埋立法4条の環境配慮要件が実際にどのように活用されたのかを探る。この判決については、評釈を執筆することが決定している(「環境法判例百選(第3版)」(有斐閣))ので、その機会を活用したい。 3)1)と2)を総合するような形での論稿のドラフトの作成に着手し、これまでの研究成果を整理するとともに、そこから見えてきた課題を抽出し、次の科研費申請等へつなげていくことをめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
体調面の悪化(胆嚢線筋腫ほか)等により、平成29年度後半に予定していたインタビュー調査や現地調査、それに学会や研究会等への出席等がかなりの程度、できなくなってしまったためである。
体調面での不安がすでに軽減されたことから、平成30年度は、それらのインタビュー調査や現地調査等を予定として組み入れている。
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