研究課題/領域番号 |
16K03435
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
秋葉 悦子 富山大学, 経済学部, 教授 (20262488)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 職業義務規程 / 医学倫理学 / 医学法学 / 生命倫理学 / 人格の尊厳 |
研究実績の概要 |
イタリア法医学の基盤をなすイタリア医師会の職業義務規程(全79条)の最新版を翻訳し、新規程に関する参考資料・情報を収集して分析・検討を行った。成果の一部は「イタリア医師会全国連盟(FNOMCeO)『医師職業義務規定』(2014)翻訳および解説」として公表した(後掲参照)。引き続き、法医学と職業義務論に関する関連資料、特に現在イタリアで刊行中の大著『生命倫理学・法科学事典(全12巻)』(E.Sgreccia e A.Tarantino(direzione di), Enciclopedia di Bioetica e Scienza giuridica)から関連重要項目を抜粋して翻訳と分析を続けている。 11月16~18日にパドヴァ大学で開催された国際会議 Responsible Stem Cell Research International Congress(筆者の所属するローマ教皇庁生命アカデミーとパドヴァ大学との共催)に出席し、幹細胞研究と再生医療の動向と規制をめぐる最新の国際情勢の知見を得た。同時に、同大学医学部の施設(解剖教室、植物園、医学博物館等)を見学し、同大学医学部D.Minucci名誉教授(腫瘍学、婦人科学、病理学)、シエナ大学M.Barni教授(法医学)、イタリア国立高等保健研究所主任研究員C.Petrini博士と情報交換を行った。またローマ・アンジェリクム大学でC.Dastoli教授(精神医学)の法医学の講義を聴講し、情報交換を行った。 日本国内では日本老年精神医学会、日本小児救急医学会、日本組織移植学会、富山県耳鼻咽喉科臨床研究会、全国国立病院院長協議会、真生会富山病院倫理研修会(開催順)等で講演する機会に恵まれ、また臨床の第一線で活躍しておられる諸氏へのインタビューを通して、各臨床現場の状況、課題、ニーズ等について具体的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イタリア法医学に関する資料・情報の収集と翻訳・分析作業は順調に進捗している。特に前掲の『生命倫理学・法科学事典』は法医学に関する重要な論点が網羅されており、最新の科学的データに基づいて複雑な問題が簡潔に解説されているので研究の大きな支えとなっている。 パドヴァ大学を訪れて気づいたことは、同大学は医学部教育が始められた世界初の大学であるばかりでなく、法学教育を創始した世界初の大学であるボローニャ大学の「娘」としての重要な役割をも果たしてきたことである。このことは法医学教育のあり方を考える上でも示唆的であるように思われる。当初予定していたローマ聖心カトリック大学医学部への訪問は日程の都合で果たせなかったが、パドヴァ大学で得た成果を生かして今後の研究をさらに多角的に進展させることも可能ではないかと考えている。 他方、当初次年度(29年度)に予定していた日本の臨床現場における各論的研究に関しては、研究会や講演の機会に恵まれたことによって予想外の情報・知見を得ることができた。 以上から、総合的に見て、当初の研究計画は順調に進捗していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
イタリア語文献の翻訳・分析作業を継続する。イタリアでは近年、医学倫理学の急速な進展に伴って、特に米国の生命倫理学・医学倫理学・法学と、欧州諸国の伝統的な生命倫理学・医学倫理学・法学の比較検討作業も目覚ましい進展を見せている。これらの研究から、米国の倫理学の圧倒的な影響下にある日本の法医学のあり方を模索する上でも様々な示唆を得ることができると思われる。 上述のように、当初昨年度(28年度)に予定していたローマ・カトリック大学医学部を訪れて、A.Fiori名誉教授(法医学)、A.Spagnolo教授(法医学)、同大学医学部附属研究所前所長であり前掲『生命倫理学・法科学事典』の監修者でもあるE.Sgreccia枢機卿と情報交換を行う。 日本の臨床現場における状況把握のための医療関係者へのインタビューも引き続き実施する。 これまでに得た研究成果を論文にまとめる作業、研究会や講演等での情報発信も継続する。
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