研究課題/領域番号 |
16K03435
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
秋葉 悦子 富山大学, 経済学部, 教授 (20262488)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 医学倫理学 / 医学法学 / 生命倫理学 / 職業義務論 / 人格の尊厳 |
研究実績の概要 |
2017年10月2日-9日および2018年2月6日-3月4日、富山大学「女性研究者の短期留学助成金」(文科省平成29年度科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」)の補助を得て、ローマ・カトリック聖心大学医学部附属生命倫理学・医学人文学研究所においてイタリア医学法学に関する資料・情報収集を行うとともに、同研究所長スパニョーロ教授(医学法学、生命倫理学)、前所長スグレッチャ教授(生命倫理学)、主任研究員ザッキーニ教授(医学法学、生命倫理学)、同大医学部フィオーリ名誉教授(医学法学)らへのインタビューと意見交換を行った。また、10月4日に開催された同研究所開設25周年記念・学術会議「保健領域における教育の中の生命倫理学」に出席、2月24日と25日には同研究所主催の新規事業、卒後教育課程(半年にわたって実施される全60時間に及ぶ集中講義)の一環として実施された看護学・産科学教職課程「生命倫理学とケア専門職:理論的基礎と善き実践」を聴講する機会にも恵まれ、他の受講生(現職の医師、看護師、医学倫理学や生命倫理学を専攻する大学院生等)とともに、イタリア医学法学教育を実体験することができた。また、グレゴリアン大学においてもカノン法医学に関する文献調査、およびカノン法学部長菅原裕二教授へのインタビューを行った。 日本国内では、富山県医師会倫理委員会・倫理審査委員会会長種部恭子医師、金沢大学・石黒盛久教授(イタリア政治思想)、富山大学・大西吉之准教授(オランダ医療福祉政策)へのインタビューと意見交換を行ったほか、日本老年精神医学会、金沢精神科学会、意識障害学会、石川県移植情報担当者等会議、臨床死生学・倫理学研究会(東京大学上廣講座)で講演する機会に恵まれ、主催者、聴講者らと意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ローマでの1ヶ月余りにわたる在外研究の機会を得て、特にイタリア医学法学の一大研究拠点であるローマ・カトリック聖心大学医学部、および医学部附属生命倫理学・医学人文学研究所で集中的な資料・情報収集を行うことが出来、さらには医学教育の実践現場に身を置くことができたことで、イタリアの医学倫理学と医学法学、生命倫理学と生命法学、医師の職業義務論の相互関係とそれぞれの基本構図を概ね把握できたように思われる。 これまでの研究を通して筆者の目の前に浮かび上がって来たイタリアの医学法学は、当初の予想とは異なり、一つの体系的・統合的な学問分野ではなく、歴史の変遷に伴って今日の形に発展してきた、様々な学問分野の寄せ集めの様相を呈している。カトリック聖心大学は、前世紀半ばに医学部を創設した世界初のカトリック大学として、また四半世紀前に生命倫理学研究所を創設して医学部教育の中で臨床生命倫理学を展開してきた実績の蓄積によって、医学法学の根底にある医学・生命倫理学と法哲学の豊富な資料・情報を蔵している。 医学法学の根底にある法哲学の視点からのアプローチを行うことができれば、イタリア法学医学の日本への示唆を考える上で大いに有益である。現在、イタリアの医学法哲学の関連文献と、近年、イタリアにおいて特に力が注がれている医学人文学教育(哲学、倫理学、法学、経済学を包含する)に関する文献の翻訳と分析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
イタリア語文献の翻訳・分析を継続しつつ、日本の医療法制度への示唆を探る。特に取り組むべき課題は、イタリアおよびフランスで発達を遂げた医学法学を、いわば独立した一つの学問分野や専門科目として日本に紹介することではなく、イタリア、フランス型の医療法制が普及した欧州諸国の医療現場の健全な支配に大いに貢献しているように見える、医学法学の土台をなし、医療関係法規範と倫理規範、そして医・看護専門職の職業義務規範との関係の明確な理解を可能にする「医学人文学」に遡って、その学際的な性格と全体像を描き出すことではないかと思われる。もともと臨床の実践知を源泉とするイタリアとフランスの医学法学は、日本の医療法制にとっても医学教育にとっても、実体的・具体的な貢献をなしうると思われる。 できる限り早い時期に、入手したイタリアの文献・資料の翻訳・分析を行い、それらに基づいて、日本の医療法制の動向を見極めつつ、日本の医学・生命倫理学・法学、医学教育への示唆を得て、特に患者の自己決定権を最高原理とする米国型の医事法制の適用が困難な、精神科医療、救急医療の分野について、具体的提言をまとめることを試みたい。 また、今後予定されている医学部生、医療従事者対象の講演で医学人文学の一環としての医学法学教育のシミュレーションも試みたい。
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