研究実績の概要 |
臨床倫理問題とその支援に対する考え方・問題意識について、臨床倫理問題の一つである宗教上の信条からの輸血拒否などの事例を取り上げて、わが国の医療現場の医師、弁護士、および米国の病院倫理委員会(Hospital Ethics Committee: HEC)委員長を対象に調査を行った。調査の対象は、東海地区の弁護士会会員である弁護士2484名、日本全国の臨床研修指定病院の病院倫理委員会委員長又は医療安全部署責任者である医師978名、東海地区(愛知県、三重県、岐阜県、静岡県)の病床200床以下の病院長332名、高度介護支援の老人保健施設の医師である施設長1159名の計4953名である。また、米国の病院ランキングであるBecker's Hospital Review, 100 great hospitals in America2)、およびU.S. News and World Report, Best Hospitals3)で州別ランキング上位5病院にてHEC委員長が公表されている病院のHEC委員長244名(以下「米国委員長」)を対象とした。 主要な調査項目は①医療現場への関与(弁護士のみ)、②施設の臨床倫理支援体制(医療職のみ)、③ガイドラインの機能、④輸血拒否の制度、⑤相対的無輸血の是非などである。 ガイドラインの運用が医療者の裁量を縮小させると弁護士の81名(31.2%)が「Yes」と回答したのに対し、医師では432名(54.4%)と高かった。相対的無輸血に関しては、弁護士は34名(13.0%)、医師は88名(18.6%)が患者の権利を侵害する可能性があると回答した一方、米国委員長は20名(57.1%)が回避するべきと回答した。以上述べたように、医と法のプロフェッションとの間、また日本と米国の専門家の間では、臨床倫理問題に関する事項に対する問題意識に若干の相違があった。
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