研究課題/領域番号 |
16K03438
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 充郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70380300)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水政策 / エネルギー政策 / 地表水 / 地下水 / シェールガス・オイル / 生態系保全 / 意思決定過程 / 持続可能性 |
研究実績の概要 |
【研究の目的】従来、水政策とエネルギー政策は別々に議論されてきたが、二つの領域に跨る活動は多数ある。ところが、二つの政策領域の決定過程において地方自治体や住民の位置づけが異なるため、一本の河川の利用方法について結論が食い違う可能性がある。本研究は、水政策を出発点としエネルギー政策を関連づけるため、(1)日米の既存の水政策について、エネルギー政策との関連性を可視化し、(2)政策の内容及び意思決定過程の両面について改善可能性を検討し、(3)主に日米比較法及び国際法から政策提言を試みる。 【研究実施計画と研究実績】(1)(2)日本では、淀川水系を中心に、治水・利水・環境統合や地表水及び地下水の統合の現状として、揚水式発電用ダムの治水転用や利水用ダムの治水転用の検討の進捗状況等を確認し、中間的成果を国際シンポジウムにおいて報告した(2017年3月、国立高雄大学、台湾)。 また、米国については、(1)東部及び中西部におけるシェール採掘が地表水及び地下水の水質に与える影響に対する対策を確認するため、2016年9月にUC Berkeley講師及びUC Hastings名誉教授を訪問し意見交換及び文献収集を行った。また、コロラド川流域において、州際水融通及び国際水融通及び水融通のスキームを利用した生態系保全の取り組みが進行している。研究成果は、環境法政策学会及び国際シンポジウム(2016年6月及び11月)において報告し、行政法研究において公表した(2017年3月)。また、(1)コロラド川の水は、高低差を消化し長距離輸送されている。現状、必要な電力は、石炭火力によって賄っているが、再生可能エネルギーへのシフトが検討されていることを確認した。さらに、(1)2017年2月に中央ヨーロッパ大学を訪問し、ドナウ川流域における水政策とエネルギー政策の関連性に関するヒアリング調査と文献収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、研究代表者は主に水政策の日米比較研究を行ってきた。本研究は、日米の既存の水政策について、エネルギー政策との関連性を可視化し、政策の内容及び意思決定過程の両面について改善可能性を検討し、政策提言を行うことを目標としている。2016年度は、3年計画の1年目であったことから、主に日米について、既存の水政策からみたエネルギー政策との接点を明らかにし、二つの政策領域の内容的な関連性と意思決定過程の異同を確認することを中心に検討を進めた。 まず、日本の淀川水系は、2000年代以降、流域治水の試みや流域委員会等により注目を集めてきたため、次の点を文献調査及び国土交通省へのヒアリング調査により確認した。第1に、原子力発電の余剰電力を活用するための揚水式発電用ダムの治水転用や利水用ダムの治水転用その他の既存ダムの連携運用、遊水地の運用の検討の進捗状況等の進捗状況を確認した。第2に、2000年頃から政権交代期を経て現在に至る意思決定過程について検討した。中間的成果は、国際シンポジウムにおいて報告した。 米国は政権交代期であったため、殆どの政策が停滞した。そこで、2016年度は、水政策の現状確認と成果の公表に努め、代わりに、欧州の現状を把握するためにヒアリング調査を行った。第1に、コロラド川流域においては、州際水融通及び米墨間の水融通及び水融通のスキームを利用した生態系保全の取り組みが進行している(行政法研究第18号に公表した)。また、東部及び中西部におけるシェール採掘が地表水及び地下水の水質に与える影響に対する対策を確認するため、2016年9月にUC Berkeley講師及びUC Hastings名誉教授を訪問し意見交換及び文献収集を行った。さらに、2017年2月には中央ヨーロッパ大学等を訪問し、ドナウ川流域の水政策とエネルギー政策の関連性に関するヒアリング調査を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、3年計画の2年目であり、主に日米について、引き続き、既存の水政策からみたエネルギー政策との接点を明らかにするとともに、二つの政策領域の内容的な関連性と意思決定過程の異同を確認する。同時に、政策の内容及び意思決定過程の改善を検討し、最終年度の提言につなげる予定である。 具体的には、日本については、第1に、淀川水系に関して、滋賀県流域治水条例及び原子力発電所の再稼働状況が揚水式発電の運用に与える影響等に関する追加調査を行ったうえで、淀川水系における水政策とエネルギー政策の関連性について日本語または英語での論文公表を予定している。第2に、水道水源保護条例及び地下水保全条例の検討を行う。第3に、自然公園内での地熱発電目的の温泉掘削許可の基準緩和が2012年に行われたが、その後の運用状況及び環境影響の有無や程度を検討する。すべての調査項目について、どのような改善が可能かを検討する。 また、米国では、2017年にはトランプ政権に交代したが、環境政策もゆっくり動き始めるものと思われることから、次の点について、年度前半は文献調査に注力しつつ、年度半ば以降にヒアリング調査を再開する。具体的には、第1に、北東部および中西部において、シェールの採掘や輸送に関する規制及び許認可・裁判例が徐々に蓄積されつつある。シェールの採掘規制については、国有地と私有地に関する規制のあり方の違いや裁判例の比較検討を行う。第2に、シェールの輸送規制についてはKey Stone XL Pipelineの許可の処遇について、政権交代前後の変化を分析する予定である。第3に、コロラド川流域については、アリゾナ州における水の長距離輸送に必要な電力の切り替えの進捗状況に関する調査を進める予定である。最後に、欧州についても、前年度に引き続き、ドナウ川流域委員会の調査を可能な限り進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
米国(および可能であればメキシコ)について、ヒアリング調査や現地調査、文献収集を2016年9月と2017年3月の計2回予定していた。しかし、政権交代により、米国の環境政策の細部(とりわけ対メキシコ関係)が動き始めるのは、早くとも2017年後半になることが見込まれる。そこで、万全を期して、北米大陸のヒアリング調査や現地調査、文献収集を2017年9月に延期することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度2017年9月に米国(および可能であればメキシコ)に出張し、次の2点に関するヒアリング調査や現地調査、文献収集を行う。第1に、コロラド川流域の米墨間のガバナンスに関して、覚書319号の成果および次の覚書の交渉状況に関する調査を行う。これと関連して、コロラド川の水の長距離輸送において必要とされる電力について、石炭火力から再生可能エネルギーへの転換の進捗状況を調査する。第2に、北東部および中西部において、シェールの採掘や輸送に関する規制及び許認可・裁判例が徐々に蓄積されつつあることから、北東部および西部の大学を訪問し、意見交換を行う予定である。
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