研究課題/領域番号 |
16K03438
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 充郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70380300)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水政策 / エネルギー政策 / 地下水保全 / シェールガス・オイル / 環境権 / 水源林 / 原子力と再生可能エネルギー / 揚水式発電 |
研究実績の概要 |
水政策とエネルギー政策には、問題の構造および政策において様々な関連性があるが、両者の関連性が十分検討されているとは言い難い。2018年度は、前年度までの調査の結果を踏まえて、追加調査を行うとともに業績の公表に努めた。 米国では、シェールオイル・ガス採掘による地下水等への影響緩和策は主に州政府および自治体に委ねられている。ペンシルバニア州においても、シェールガス・オイルの採掘が進むが、州憲法に基づく採掘規制条例が現れ、2013年には環境権に基づく自治体条例による規制を認めた判決が確定した(拙稿「米国における州法および自治体条例によるシェールガス・オイルの採掘規制の動向」上智法学論集62巻3・4号合併号掲載予定)。 また、拙稿「原発訴訟からみた電源多様化の展望」友岡史仁・武田邦宣編『エネルギー産業の法・政策・実務』(弘文堂、2019年)248-291頁において、原発稼働と再生可能エネルギーの普及の媒介項である揚水式発電所(および送電線網)にも焦点をあてた。九州電力管内において、揚水式水力発電は、原発再稼働前には太陽光発電等によって生み出された電力の調整弁として活用されていたが、再稼働後は原子力発電の調整弁とされ、原子力発電が再生可能エネルギーを締め出している実態を明らかにした。 さらに、7月には、気候変動緩和策について報告を行うとともに(Water Law Reform to Adapt to Climate Change, 2018 IUCN Academy of Environmental Law Colloquium, University of Strathclyde, Glasgow, UK)、2018年5月の森林経営管理法制定を踏まえて2018年度日本農業法学会学術大会シンポジウムにおいて報告を行う中で、気候変動緩和策および気候変動適応策との関連について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は、松本充郎「原発訴訟からみた電源多様化の展望」友岡史仁・武田邦宣編『エネルギー産業の法・政策・実務』(弘文堂、2019年)248-291頁において、原発稼働と再生可能エネルギーの普及の媒介項である揚水式発電所(および送電線網)にも焦点をあてた。また、松本充郎「道路」宇賀克也・小幡純子編『条解国家賠償法』(弘文堂、2019年504-535頁において、天候が急変した際の道路管理者の責任に焦点をあてた裁判例についても検討した。そして、「米国における州法および自治体条例によるシェールガス・オイルの採掘規制の動向―ペンシルバニア州憲法における環境権規定の機能と限界―」上智法学論集62巻3・4号合併号掲載予定において、ペンシルバニア州におけるシェールガス・オイルの採掘規制条例の正当性について検討した(2013年には環境権に基づく自治体条例による規制を認めた判決[Robinson Twp. v. Commonwealth, 83 A.3d 901 (Pa. 2013)]が確定した)。 また、6月に「米国におけるシェールガス・オイル採掘の自治体条例による規制について」(環境法政策学会第22回学術大会)、7月に”Water Law Reform to Adapt to Climate Change” (2018 IUCN Academy of Environmental Law Colloquium, University of Strathclyde, Glasgow, UK)、9月に「コメント 日本の漁業制度における持続可能性・予防的アプローチ・生態系配慮」(国際法学会 2018年度研究大会)、11月に「持続可能な林業の担い手に関する法学的考察」(2018年度日本農業法学会学術大会シンポジウム)の4本の学会報告を行った。 なお、家庭の事情により追加調査が若干遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
遡河性魚類であるアユやサケは、河川と海との間を行き来し、人間とのかかわりが深いことから、人間にとっての良好な流域環境の象徴である。しかし、現在の河川は治水・利水・発電等を目的としたダムや堰によって区切られ、魚道の設計が不適切であることから、アユやサケの降河・遡上・摂餌が阻害されている。 今年度は、まず、高知県におけるアユの天然遡上復活に向けた取り組みについて追加調査を行う予定である。また、淀川流域における流域治水・摂津市環境保全協定に関する裁判例および武庫川流域における流域治水・天然アユ保全活動を掘り下げる。比較対象として、カリフォルニア州における持続可能な地下水保全法における伏流水の処遇および河川におけるサケ等の魚類への影響について検討する。研究成果を年度内に論文を公表する予定である。 また、北太平洋の両岸においてふ化放流事業が行われているにも拘らず、太平洋におけるサケの資源は回復していない。そこで、ふ化放流事業を重視する政策の妥当性と国際法および国内法上の漁獲規制の妥当性について検証する。アユの場合と同様に天然サケ遡上支援活動が必要か否かを検討する。研究成果を日本語および英語の論文を公表する予定である。 さらに、米国におけるシェールオイル・ガス採掘による水源汚染等の影響緩和策については、既に、第22回環境法政策学会(2018年)において報告済であり、環境権規定の機能と限界についても上智法学論集において公表が確定している(2019年6月頃の予定)。しかし、ペンシルバニア州憲法の環境権規定が2013年以降どのように運用され、日本法においてどのような含意を持ちうるか、ニューヨーク州環境影響評価法が採用する実体的環境影響評価制度は日本でも導入可能かどうか等の点を掘り下げて、年度内に論文として公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が16万円程度生じた。その理由は、家族の健康事情により、文献調査や追加調査・消耗品購入・業績の公表に必要な予算執行が若干遅れたためである。ただし、今年度に行う文献調査・追加調査・消耗品購入・業績の公表によって、確実に研究計画を遂行し、予算執行を行う予定である。
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