研究課題/領域番号 |
16K03439
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
神野 礼斉 広島大学, 法務研究科, 教授 (80330950)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強制入院 / 身体拘束 / 成年後見 / 精神保健福祉法 / 世話法 / 民法 |
研究実績の概要 |
2017年度は、九州国際大学法学論集23巻1・2・3号に論説「ドイツ世話法における強制治療と国家の保護義務」を発表した。 本稿において素材としたドイツ連邦憲法裁判所2016年7月26日決定は、①身体と健康の不可侵性(基本法2条2項1文)の基本権は、個人の防御権だけでなく、国家による保護義務をも保障するものであること、②基本法2条2項1文に基づく国家の保護義務は、被世話人が医的措置の具体的な必要性を弁識することができず、それゆえ自らを保護することができないまま身体と生命を危険にさらしてしまう場合、厳格な要件の下、被世話人の自然の意思に反しても重大な危険から保護するための諸措置を国家が行うことを命ずるものであること、③援助のない者に対する国家の保護義務は、危険を回避するために必要となる医的措置が特別な治療上の危険性を伴わず、かつ、当該治療を拒絶することが被世話人の当初の自由な意思に合致する十分な根拠が存在しない場合、本人の自己決定権とその身体の不可侵性をも超越する、というものであった。 障害者権利条約が「意思決定の代行から意思決定の支援への転換」を要請する中で、ドイツ法が本人の自己決定の尊重を中核に置きつつも、国家の保護義務の重要性を再確認したことは、わが国の成年後見制度における身上監護の在り方(身体に対する強制を伴う措置の在り方)を考えるにあたっても一つの示唆を与えるように思われる。 なお、2017年5月、第14回日本成年後見法学会において、「成年後見制度の現代的機能」のテーマで研究報告を行った。成年後見利用促進法11条3号は、成年被後見人等が「円滑に必要な医療、介護等を受けられるようにするための支援の在り方について、……検討を加え」るものとしているところ、高齢者や障害者が医療や保健など健康サービスへ円滑にアクセスできる体制作りが必要である旨の報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この問題をめぐる日本法・ドイツ法の状況について、条約の要請にも目配りしつつ、引き続き検討を行っているが、契約の側面からの検討がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
患者本人に家族がおり、家族が四六時中本人を介護することができれば、強制入院や身体拘束は行われなくても済むのかもしれないが、要保護者の支援を家族に任せる家族依存社会は民法学においても改められなくてはならない。家族は法律上患者本人に対してどのような法的義務を負うのかなどについても検討した上で、わが国における強制入院、身体拘束に対する法的対応のあり方について提言をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注済みの外書の出版が予定よりも遅れたため、当該年度中に処理できなかった。次年度中には処理できる見込みある。
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