2018年度は『医事法辞典』(信山社)の分担執筆を行った。とりわけ「家族の意思」、「家族中心モデル」の項では、同意能力を有しない患者のインフォームド・コンセントが法的裏付けのないまま事実上家族によって行われていること、たしかに精神保健福祉法や臓器移植法には同意権者としての「家族」が定められているものの、その定義は必ずしも明確ではなく、大きな手術や強制入院などの人権介入については裁判所が関与することの必要性などについても検討の余地があることを論じた。 3年間にわたる研究では、主として以下の研究を行った。「強制入院と身体拘束に対する法的規制」法と精神医療31号では、わが国における強制入院と身体拘束が抱える法的諸課題を検討するとともに、ドイツの先進的な法制度の紹介を行った。また、「ドイツ世話法における強制治療と国家の保護義務」九州国際大学法学論集23巻1=2=3号では、このような強制措置の根本問題ともいうべきパターナリズムと自己決定尊重の相克について、ドイツの連邦憲法裁判所の判決を素材に検討を行った。さらに、「成年後見制度の現代的機能」成年後見法研究15号では、成年後見制度利用促進法11条3号が、成年被後見人等が「円滑に必要な医療、介護等を受けられるようにするための支援の在り方について、……検討を加え」るとしていることを踏まえ、成年後見における身上監護と強制措置との関係について検討を行った。以上における検討で得られた知見を踏まえ、「認知症患者をめぐる医事法上の問題」『精神科医療と医事法』(信山社)(掲載決定)において本研究の最終的なまとめを公表する予定である。
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