2019年度の研究の実績は、以下のとおりである。
第一に、国連・高齢化に関する作業部会および高齢者人権条約に関する国際動向および国内の政策課題についての成果を出した。日本におけるハンセン病回復者の特徴は高齢期であることと、なかでも国連が言う「脆弱なグループ」に属することである。国連では、現在、高齢化に関する作業部会のなかで、こうした「脆弱なグループ」の差別等にも関心を寄せ、高齢者人権条約制定に向けた議論を本格化させている。このことに注目し、申請者は図書1編、論文1編をあらわし、招待講演1本で成果を公表した。 第二に、社会福祉施設における政策上の課題に関する成果を出した。日本におけるハンセン病回復者は、隔離政策の長期化ゆえに、隔離政策廃止後も在宅に戻ることが困難である。こうした状況から、患者の多くが住む国立療養所は社会福祉施設化している。2016年に発生した津久井やまゆり園殺傷事件から、社会福祉施設のあり方に社会的議論が高まっており、申請者は福祉労働の観点から批判的考察を行い、成果を公表した。申請者は、図書1編を公表した。研究協力者の井上は、申請者とともに図書1編のほか、論文等を2本公表した。 第三に、これまでの成果として、戦後におけるハンセン病政策につき人権の観点から批判的考察の成果を公表した。研究協力者の井上が論文3編をあらわした。なお、出版が遅れているハンセン病隔離政策廃止後の裁判研究を含んだ『社会保障裁判研究』(仮題)(ミネルヴァ出版)は、2020年度に発表予定である。申請者は、ハンセン病隔離政策に関する裁判研究2編に取り組んだ。研究協力者の井上は、2000年代以降の裁判動向、政策動向、特別法廷問題等を取り上げ、人権保障の観点から考察している。
|