ドイツにおいて、医療ネグレクトは、家事事件である「親子関係事件」(Kindschaftssache)として、児童虐待対応に特化した法的枠組みではなく、民事実体法・手続法上に網羅的な体系法として構築されている親子法制の枠組みのなかに位置づけられ、民法1666条に基づき裁判所による司法的介入の対象とされてきた。それと同時に、裁判所は、児童及び少年扶助法における児童福祉上の相談・支援のための実働的な行政機関である少年局と緊密に連携してきた。 これに対して、日本において医療ネグレクトに対応するための法制は、ドイツのそれとは基本構造を大きく異にし、GHQ占領下の1947年に制定された児童福祉法や、これを補完すべく2000年に議員立法として成立した児童虐待の防止等に関する法律といった単行法を基盤としており、児童相談所による公法的・行政的介入を基幹に据えている。そして、2011年に新設された児童福祉法33条の2とこれに関する行政解釈に基づき、児童相談所長が家庭裁判所の親権喪失・停止審判によることなく、その行政上の専権処分である一時保護(児童福祉法33条1項)により医療ネグレクトに介入するかたちで実務が定着をみている。 本研究は、このような日本の法状況に対して批判的な観点に立脚したうえで、ドイツ法をモデルとして法治国家原理を権力分立により担保すべく、司法的コントロールのもとでの介入措置と、行政的な相談・支援との間で役割分担を明確化しつつも、両者が連携・協働することに向け、日本でも法整備が進められるべきであることを明らかにした。
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