今まで現地フィールドワークがコロナ禍で実施できず、研究が滞っていた。ところが、最終年度たる2022年度は、何とか3度にわたって現地・韓国に渡航して、フィールドワークを行った。トランスジェンダーによる性別変更事件を中心に一般法院の解釈傾向に関する一次資料などを調査・収集した。日本法のような「性同一性障害の性別変更に関する特例法」が韓国では2度にわたって国会で法案(議員立法)が提出されつつも、政府および与党の影響で廃案となった。その要因に対する究明を特に探索した。その要因は、男女の性別は不変であるとの二元体制によって家族法および兵役法などの法制が施行されており、もし性別が事後的にも可変にすることが可能だとすると、性別にもとづいた法的地位が法的に不安定になることを懸念したところにある。結局、一般法院での判例でトランスジェンダーによる性別変更を可とする法的基準を設けることで、性的マイノリティの人権を保護する「司法的解決方式」が取られた。この点が明らかになった。 本研究では、トランスジェンダーによる性別変更事件のみならず、「良心的兵役拒否事件」の一連の判例を分析することで、一般法院での人権救済を実現する上で司法解釈権に止まらず、憲法適合的解釈を駆使して下位の関連法令の内容に新たな法基準を設けて、規範内容を修正する司法現象に注目した。司法判断が、本来の法律規範を変更して、マイノリティの人権が保障されるように、事実上、立法の法改正行為を代行する機能を有していた。本研究は、こうした「司法による立法化現象」の憲法上の特徴とともに、立法権に介入することにで生じる権力分離の原則および議会制民主主義の原理での問題性を析出したところに研究成果を見出すことができる。
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