研究課題/領域番号 |
16K03447
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
和田 幹彦 法政大学, 法学部, 教授 (10261942)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 医事法 / 生殖医療 / 遺伝子工学 / 人工生殖 / 遺伝学 |
研究実績の概要 |
交付申請書に記載した「研究の目的」、「研究計画・方法」に従い、まずは電子ジャーナルから本科研費のテーマ「デザイナー・ベビー」「同性間の実子」に関する自然科学の論文を熟読した。その上で、後掲の【現在までの進捗状況】「理由」に記した複数の学会および米欧出張で、先端自然科学の最新知見を学んだ。これを併せて、暫定的結論・今後の研究の見通しは: a.「デザイナー・ベビー」:緻密な検討により、「病気に罹らないデザイナー・ベビー」によってしか実子を持てない男女にはこれを認める。「能力向上・身体改善(エンハンスメント)」は「まだ生まれない子の人権保護」という21世紀親子法と生命倫理の最新理念に拠り「子の最善の利益」にマッチしないので禁止・規制する。こうした国際条約案を策定する。 また、この問題において重要なのは、近時、日本国内で、国の生命倫理専門調査会は、ゲノム編集ヒト受精卵を操作することを基礎研究に限り認める指針を出しているが、それを明記する立法が無いことだ。立法をも目指して今年3月に日本人類遺伝学会等は基礎研究審査のための合同委員会を立ち上げたが、4月に一旦解散、内閣府と審査体制を再協議している。こうした国内立法の動向もフォローしつつ、国内法策定も考慮していきたい。 b.「ゲイ・カップルの実子」: 入江奈緒子博士ほか(2015)の論文の共著者, Jacob Hanna博士の <2年後の2016年末頃には、男性のiPS細胞から卵子作製が可能[*])> との言明は実現しておらず、かつ論文の最終著者のSurani博士に依り、<それ[*]は近々には極めて困難である>との確証を得た。そこで、本研究の方向性を、将来的には必ず可能になるであろうこの技術[*]が実現した暁には、激論となることが必至の倫理的・法的・社会的問題を先取りして精査し、国内法の仮案の策定に至るまで、研究し続ける方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年(平成28年)10月21日に、初めて採択・交付・執行開始が可能となったので、2016年度は実際は5か月と10日間のみの本科研費による研究を行ってきた。しかし、予定通り同年度の4月1日から2017年3月31日まで、東京大学大学院総合文化研究科の理系の研究室の「共同研究員」となっていたこともあり、交付・執行可能となってからは、同研究科の専任教員・ポスドク等からの適切なアドバイスを受け、本研究を進捗させることができた。 また、交付・執行開始後、多くの国内外の最先端の学会・シンポジウムに出席したことで、本研究の「デザイナー・ベビー」と「同性間の実子」、双方のテーマについて貴重な世界最先端の知見を得ることができた。 学会の例は、(以下*は和田の研究発表あり)11月の横浜の「日本生殖医学会」、米国の「国際神経倫理学会」、同月の静岡の「シンポジウム『生殖細胞のエピゲノムダイナミクスとその制御』」、明治大学での「医事法学会」、12月の大阪大学での「生命倫理学会」、金沢市の「*進化と人間行動学会」、学士会館の「次世代脳プロジェクト」、1月の慶応大学での「*新学術領域『共感性の進化』領域会議」、3月の神戸での「国際シンポジウム:Towards Understanding Human Development, Heredity, and Evolution"」である。 また、米欧に出張し、本研究に関与する最先端の研究者たちと科学的情報と意見交換ができた。最重要であったのは本科研費の交付申請書にも明記した、英国・ケンブリッジ大学の入江奈緒子博士を研究室に訪問し、研究の最先端の解説を受けるとともに、「同性間の実子」に伴う倫理的・法的・社会的諸問題を議論したことである。(また入江博士の研究室の主任研究者Azim Surani博士と上述の3月の国際シンポで会い、意見を交せたのも実りがあった。)
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今後の研究の推進方策 |
まず、初年度に行う時間的・心理的余裕のなかった、パソコン・タブレット端末等のハードウェアの選定・購入を行い、今後の研究の「インフラ」を整える。また、「交付申請書」に予定を明記したものの、上述の通り時間的に余裕が無かったため、予定の初年度には果たせなかった京都・福岡・仙台・札幌に出張し、本科研費のテーマに関わる自然科学者・社会科学者と研究情報や意見を交換する予定である。 加えて、5-6月には米国の「進化と人間行動・国際学会」「人間行動国際学会」、6月には香港の「生殖幹細胞生物学・国際学会」にて参加・発表を行う。7月には「日本神経科学会」にも参加する。(なお年度後半11月には、米国で「国際神経倫理学会」「国際神経科学会」にも参加する予定である。)同時に並行して「交付申請書」に記したとおり、文字通り「日進月歩」の本テーマの最新の英語のトップ・ジャーナル論文をフォローし、最先端の知見を学び、論文執筆の準備とする。 なお、本研究の課題を遂行するには、当初「交付申請書」には明記しなかったものの、人間行動学、特に神経科学の研究も深くかかわってくることが判明した。「なぜ、ヒトは受精卵を操作してまで、『より良い』子を持とうとするのか?」という問いには、人間行動学の研究が欠かせない。加えて、「デザイナー・ベビー」に必須の技術であるゲノム編集と、「同性間の実子」の先端生殖工学の理解には、神経科学の知見も必要となる。その限りで、この2つの新たな研究領域の最先端も、関連する文献の熟読と、学会への参加により、研究する予定である。また、本研究テーマについて、日本の一般市民がいかなる意見を持っているか、そうした思考はどこから来るかの調査も、可能ならば行っていきたい。 その上で、平成29年度(2017年度)の後半には、本科研費のテーマについての英語・日本語の両論文の執筆を開始し、ほぼ完了する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度(2016年度)の本科研費の採択・交付・執行が、当初に予想していた4月1日ではなく、10月21日になって初めて認められたからである。そのため、2016年度は、12か月の代わりに、5か月と10日しか、本科研費による研究を行うことができなかった。したがって、当初予定していた文献を熟読のために購入したり、外国学会出張をするための、時間的余裕が無かったのは当然の成り行きであった。
また、それでも文献の熟読、可能な限りの国内外の学会参加・研究発表に努めたため、本来基礎的なハードウェアである新たなパソコン、タブレット端末などを選定・購入する時間的・心理的余裕もなく、そのための金額も「次年度使用額」とせざるを得なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
まず、初年度に行う時間的・心理的余裕のなかった、パソコン・タブレット端末等のハードウェアの選定・購入を行うために使用したい。
また、「交付申請書」に予定を明記したものの、上述の通り時間的に余裕が無かったため、予定の初年度には果たせなかった京都・福岡・仙台・札幌に出張し、本科研費のテーマに関わる自然科学者・社会科学者と研究情報や意見を交換するため、国内出張の旅費を使用したい。
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