研究課題/領域番号 |
16K03448
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大塚 直 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90143346)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 予防原則 / 環境損害 / 環境訴訟 / 環境リスク / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、環境法の分野における科学的不確実性の問題に対して、「予防原則」を具体化することを目的とする。第1点として、環境リスクに対する「予防原則」の環境政策における適用のあり方、第2点として、環境リスクによって発生する損害賠償のあり方、を検討課題とする。 初年度である2016年度は、フランスから4名、国内から2名の教授を招き、国際シンポジウム「日仏における環境法と環境訴訟」を開催した。①環境裁判、②国際環境法と国内訴訟、③原子力損害と訴訟、④生物多様性と訴訟をテーマとし、大塚は原子力損害について、研究協力者の二見は生物多様性損害について報告した。その後、国立環境研究所の研究者とともに予防原則及びリスクに関する研究をするとともに、原発事故のリスクと差止訴訟に関する検討も進めている。 研究の成果は、以下のとおりである。予防原則に関する基本的な考え方を示しているEUコミュニケーションペーパー(2000年)では、リスク評価についても、科学界の少数派の信頼と評判が認められれば、それに対して十分な配慮がなされるべきであるとしており、予防原則とは、市民等の参加の下に科学的不確実性のある事象を検討するものであるが、科学的に根拠のない懸念を問題とするものではなく、科学者の間ではまだコンセンサスは得られていないが、一定程度有力になっている考え方に対する配慮をするものとして認識することが重要である。この点は環境政策に予防原則を反映させる上でも、リスクに対する損害賠償や差止(平穏生活権が問題となる)を論じるうえでも指針となると考えられる。 予防原則の核心に関するこのような理解は、一部の科学者が予防原則を「素人の思い込み」と捉えて拒否感をもっている現状を改善し、環境政策に一定程度反映させること、訴訟においても一定の条件の下に活用されうることを導くであろう。この点が本研究の意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した、国際シンポジウム「日仏における環境法と環境訴訟」において、リスクによって発生する損害の賠償について幅広いテーマで検討し、また、その後、国立環境研究所の研究者とともに予防原則及びリスクに関する研究をするとともに、フランスやわが国のリスクに関する訴訟についても文献によって検討も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きフランスを中心として研究者を招聘してシンポジウムを開催し、環境リスクに対する予防原則の適用及び損害賠償の議論を検討するとともに、国内の科学者を交えつつ、水俣病、ダイオキシン類、アスベスト、化学物質過敏症など、過去および現在の環境リスクとその法的・規制的対応について議論を深化させる計画を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用計画時には、国際シンポジウムの開催にあたり、海外から招へいする研究者の旅費を本科研費から支出する予定であった。計画通り、国際シンポジウムは開催したが、科研費で旅費を支出するのではなく、国際共同研究の相手方であるフランスのエックス・マルセイユ大学法政学部CERIC(国際EU研究センター)側が自ら旅費を支出してくれた。当初の計画では、科研費から旅費を申請し、フランスから一人しか招へいできないと考えていたが、相手方が旅費を支出してくれたため、国際シンポジウム報告者として4名来日された。 そのため、2016年度は、予定していた旅費の支出がなく、残高が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度も、当初の交付額で国際シンポジウムの開催を予定している。この次年度使用額は、海外との共同研究・比較法研究をより深めるために、資料購入による文献調査や国内研究会の開催によって検討を深めることに充てることを予定している。
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