研究課題/領域番号 |
16K03448
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大塚 直 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90143346)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 予防原則 / 環境リスク |
研究実績の概要 |
本研究は、環境法の分野における科学的不確実性の問題に対して、「予防原則」を具体化することを目的とする。第1に、環境リスクに対する「予防原則」の環境政策における適用のあり方、第2に、環境リスクによって発生する損害賠償・差止のあり方、を検討課題とする。 3年度目である2018年度においては、大塚は日本学術会議のレギュラトリー・サイエンスの分科会に所属し、2019年2月 3日には、「第89回日本学術会議-日本衛生学会共催シンポジウム」(於 名古屋大学)で、「公害裁判から未来の行動目標へ」というテーマで報告した(学術の動向2019年10月号に掲載される予定である)。また、同年3月29日には、環境法政策学会ワークショップ「科学・医学と損害賠償訴訟(その1)」(於 早稲田大学)を開催し、「導入」の発表をつとめた(判例時報に掲載される予定である)。 さらに、国立環境研究所の研究者とともに、予防原則及びリスクに関する研究を行い、リスクが発現する当初における行政等の対策の経緯を検証し、新たに科学的に不確実なリスクが発生する場合の対処方法について、毎月、国立環境研究所と早稲田大で交替しつつ研究会を行っている。 本研究の今日の問題として、①リスクが小さいか、科学的に不確実であっても、(発生した場合の)損害が重大であるときに、事業者及び国に対してどこまで要求することができるのか(過失の問題)、②科学的不確実性を要素とするケースにおける因果関係の判斷について、科学的エビデンスはどこまでどのような形で求められるのか、の2点が挙げられるが、①については、『民事判例2018年後期』で扱った。②については、近時、水俣病に関する訴訟で問題とされている。予防原則は決して科学的エビデンスを不要とするものではなく、エビデンスは必要であるが、科学的不確実性が残っている場合には、有力な少数説も考慮されなければならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した、国内シンポジウム/ワークショップにおいて、リスクによって発生する損害について検討するとともに、国立環境研究所や日本学術会議分科会で、他分野の研究者とともに、予防原則やリスクに関する研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
他の科学研究費との使用計画の調整をしつつ、外国から研究者を招聘してシンポジウムを開催し、環境リスクに対する予防原則の適用及び損害賠償・差止の議論を検討するとともに、国内の科学者を交え、国立環境研究所や日本学術会議と関連させつつ、水俣病、化学物質過敏症、アスベストなど、過去及び現在の環境リスクとその法的・規制的対応について議論を進化させていく。 上記の2つの問題点とともに、さらに、③科学的不確実性があるケースにおける過失ないし違法性の判斷は、ハンドの定式ないし比例原則とどのような関係にあるか、④従来事実的因果関係とされてきたものは、環境訴訟では、事実と捉えられるべきか法的評価と捉えられるべきか、後者であるとして、それは評価的要件というべきものか、について一定の結論を得たいと考えている。③については、過失は行為時で判断されるものであることからすると、行為時に、一体どの程度のリスクが想定されれば(福島原発事故では、事前の長期評価において、30年で6%の確率で津波が発生するとされていた)予見可能性があったとみるかを検討することになるが、その際、予防原則に配慮して「万が一にも事故を起こさない」判断をすべきであるとともに、これが女川判決以降、わが国の多くの原発民事差止訴訟判決が用いてきた、「社会通念上無視できる」水準は何かという問題に密接に関連する点にも留意する必要があると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度において、他の科学研究費との使用計画の調整をしつつ、外国から研究者を招聘してシンポジウムを開催することを検討している。また、資料購入による文献調査や国内研究会の開催によって研究を深めるために今年度使用額を充てることを予定している。
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