近年、ヨーロッパ人権条約8条が保障する「私生活を尊重される権利」が生命倫理分野で起こる種々の問題に適用されるケースが増加している。生殖補助医療や終末期医療に関して個人が行った決定は、「私生活の尊重」の概念を援用することで人権条約上も保障できるとヨーロッパ人権裁判所が判示したためである。ただし、この権利の保障は、締約国にどの程度の「評価の余地」が認められるかに左右される。とりわけ、生命倫理分野では当事者間で利益が競合するために、締約国による調整の有無は重要な論点となる。本研究は、生命倫理分野に関わる裁判所の判例の分析を通して、同分野における8条の適用可能性および実効性を解明するものである。
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