研究課題/領域番号 |
16K03453
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
若尾 典子 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (70301439)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家族主義 / 社会的養護 / 子どものケア |
研究実績の概要 |
一つはウィーン市の児童養護施設(ハイム)における暴力問題に関する研究の進展状況の調査を行った。2010年、ハイム内暴力の被害者の告発を受けて、ウィーン市長が謝罪し補償を約束し、すぐに歴史家委員会が設置され、実態研究が行われた。その研究成果が2012年『奪われた子ども時代ーウィーン市のハイムにおける暴力(1950年代から1980年代まで)』として公刊された。今回は、その後の研究状況の進展を調査した。2012年の時点でも、ハイムを「もう一つのケア」として人権の視点から検討する研究は、ほとんどなかった。しかし、子どもの権利条約の批准によって被害者の告発が行われ、事件が解明されたことで、ハイムと子どもの人権との関係についての研究が進展したのではないか、と思われた。ところが、ほとんど進んでいなかった。ただ、歴史家委員会委員長でウィーン大学教授のジーダー氏が、法的枠組に視野を広げる研究を継続していた。小規模ハイムへの改革によって、ハイム内暴力の問題は克服されたと考えられており、なぜ、1980年代までハイム内暴力が隠蔽されていたのかという問題意識をもつ研究はない状況が明らかになった。いま一つは、日本における「社会的養護」の憲法上の位置づけについて、先行研究を検討した。近年、「家族主義」あるいは「家族主義レジーム」という用語で社会福祉制度が比較検討されている。だが、欧米諸国の比較研究における家族主義は、例えば、3才児未満の子どもに関する「ケア」として育児休暇と保育所があるが、前者は家族主義、すなわち親が家族生活を楽しむ制度という評価である。日本の「家族自己責任主義」とは異なる概念である点に配慮せず、社会的養護の研究においても「家族主義」分析を行うと、小規模化や里親制度の充実といった改革を、「家族自己責任主義」への傾斜として把握しかねない危険性があることが、明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウィーンのハイム虐待問題研究においても、日本の社会的養護研究においても、先行研究の蓄積が少ないことを確認した。とくに、社会福祉制度の国際比較研究において使用される「家族主義」という用語が、日本の福祉研究では「家族自己責任主義」と同義に把握される危険性があることを明らかにした点は重要である。この点をふまえて、日本の「家族自己責任主義」の問題を論文としても明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
社会的養護を人権保障として検討する課題は、2016年度の「子どものケア」に関する研究と、2017年度の「家族主義」に関する研究をふまえて、憲法24条の家族条項と25条の生存権保障との連動として、明確にする。社会的養護に関する先行研究の少なさに対応するために、「子どものケア」論の国際的な進展状況とジェンダー学における「ケア」論に関する研究の進展状況を視野にいれて、研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年度に予定していた国内調査が、骨折のため実施できなかった。 (使用計画)今年度は、国内調査を実施する予定である。
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