研究課題/領域番号 |
16K03457
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 幹根 北海道大学, 大学院公共政策学連携研究部, 教授 (30295373)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 公共政策 / 政府間関係 / タバコ規制政策 / イギリス / スコットランド / 条例 / 地方自治体 |
研究実績の概要 |
2021年3月、スコットランド議会がイギリス国会に先駆け、国内で初めて公共空間の禁煙法を施行して15周年を迎えた。民間の禁煙推進団体であるASH Scotlandによれば、当初は実効性が懸念されていた同法は順調に社会に定着した。公衆衛生の観点からも、小児ぜんそくの入院が18%,心臓発作の入院が17%減少したという。さらに、ニコチンの空気感染の指標であるコチニンのテストによっても受動喫煙の悪影響を被らない人が飛躍的に増えていることが実証されるなど、政策の成果が改めて明らかにされている。 現在、イギリスでは、タバコ規制政策に止まらず、メンタルヘルス、問題を抱えた過程への介入などの政策課題に関して、証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making)と予防(Prevention)の考え方が注目され、実際の公共政策にもこうした概念が適用されるようになっている。しかしながら、政策目的のあいまいさ、政策形成の場が分散していることなどが要因となり、必ずしも公共政策が実行性を確保できない場合がある。こうした現状に対し、最新の公共政策研究成果によれば、公共空間の禁煙政策をモデルとしつつ、①証拠を不確実性(uncertainty)の低減に活用し、②より実効的な予防政策を導くための政策環境(policy environment)の整備、③政策手法のために多くの政策の窓(windows of opportunity)を活用するべきであるとの示唆が導かれている。こうした知見を活用することによって、他の分野の公共政策への適用、および、日本をはじめとする他国との比較研究への発展可能性を展望することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は先ず、イギリス政治学の動向の把握に努め、公共政策研究で用いられる諸概念に加え、証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making)および予防(Prevention) の考え方に注目することによって、タバコ規制施策やアルコール規制政策が具体化する過程や、領域間で同化と分化が生じる要因について検討し、比較研究をいかに発展させてゆくかに焦点を当てながら考察を進めることができた。また、日本における研究に関しても、地方自治体による屋外広告物規制政策が同化または分化する要因を考察した研究が発表され、そこから本研究を発展させるための示唆を得ることができた。 その一方、コロナウイルスの感染が収束しない状況下では、現地調査を中心とした実証研究を進めることが困難であった。特に、2020年には改正健康増進法の施行を迎え、受動喫煙防止政策が全国レベルで展開される時期であり、同法の執行過程や、すでに受動喫煙防止条例を指定している自治体とそうでない自治体との差異などを調査することが期待されたが、見送らざるを得なかった。また、同様に、イギリスにおける現地調査に関しても、コロナウイルス感染防止の入国制限等のため行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
特記すべき事項はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究においては、経費を効率的に執行することができたこと、また、渡航先が入国制限措置及び入国後の行動制限を行っており、コロナウイルス感染症のリスク回避のために海外調査を見送ったこと等から残額が生じた。 次年度は、2021年5月にスコットランド議会選挙が行われ、スコットランド国民党政府による公共政策の成果が問われるとともに、2020年12月末に執行したイギリスのEUからの脱退による政治的経済的な影響の拡大等の動向は見られることが予想されるため、こうした点を中心に、本研究が考察するイギリスの政府間関係および公共政策に対する影響を考察する必要がある。そのため、イギリス政府とスコットランド政府との政治的対立の動向に関する現地調査を行うために執行する。
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