近年のスコットランドにおけるタバコ規制政策は、個別の課題に焦点を当てた対策を行うように変化しつつある。また、保健医療政策分野では予防の観点が重視されるようになっているが、タバコ規制政策の予防の考え方からアプローチする手法に関心が高まっている。さらに、不平等(inequality)の視点とタバコ規制政策を関連付ける考え方が強まった。実際、貧困地域住民の喫煙率が高いだけでなく、妊婦の喫煙率の高さやタバコの影響を受けやすい子どもの環境が指摘されている。こうした中、全体の喫煙率の引き下げとともに、公衆衛生に関する不平等の解消が目指されている。 本研究で取り上げた政策研究を理論面から検討すれば、第一に、近年注目を集めているEBPM(Evidence Based Policy Making)によるアプローチに関して、合理的かつ説明責任を確保しやすいことから政策の実効性確保のための集権化志向と軌を一にする傾向があるが、誤った前程や単純な解決によるEBPMへの願望を助長するおそれが、また、政策形成の分権化志向との相反状態になることが指摘されている。第二に、国際機関、国、地方政府、民間事業者、市民社会団体を包括する概念として、従前よりマルチレベル・ガバナンス概念が用いられることが多いが、同概念の用い方に関しては、それぞれの主体の役割はどうあるべきか、特に各政府の説明責任をどのように確保するのかが不明瞭になってしまう点が指摘されている。こうした点に留意しつつ、公共政策の比較研究にふさわしい分析視角の構築を追求する必要がある。
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