本研究は、いわゆる「政治的オポジション」を中心に、その供給側(政治家・政党)ならびに需要側(有権者・活動家)の相互作用を念頭に置き、研究対象 国における新たな政治的オポジションの形式やその因果関係について主として分析を進めた。この過程では、政党制のアリーナ、有権者市場のアリーナ、そしてその結果として生じた政治的・政策上の変化のアリーナが特定された。 その結果、こうした現象は、過去約30年間に渡る有権者市場の脱編成や組織的統合の弛緩の結果として表象しているものであり、現在進行している政党制の流動化の主要因であることを概ね突き止めることができた。もっとも、その政治的・政策上のアリーナでの変化については、明確な指標による変化を必ずしも特定できず、オポジションの多様化は、測定可能な政策変化を自動的に生み出すわけではないことも了解された。そこでは、有権者市場の断片化と脱編成によって、政党―社会運動の基礎的関係が崩壊し、その結果として、それまで伝統的なオポジションが果たしてきた機能そのものが変容し、アリーナの比重や相互関係がこれまでとは異なった形で展開することが判明した。 政党制の変容、有権者の再編成、伝統的組織の形骸化など、先進国の多くは、これまでの政治学的分析の対象となってきた基礎的・理論的土台の変容を大きく見せている。 本研究は、民主政治の理念的な前提となってきたこれらの要素が、とりわけ新たな政治的オポジションの台頭を通じて、再検討を迫られていることを示すことができた。このことは、これまでの政治学上の伝統的なコンセプトや概念の応用が難しくなってきていることを指し示しており、日本を含む、先進民主主義国の政治システムについての知見をアップデートすることを示唆している。
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