本研究の目的は次の三つを明らかにすることである。(1)戦後日本の政治過程において、選挙制度、派閥、首相の補佐体制の変遷が、首相の与党議員に対する人事権や与党閣外議員の政策情報量に作用することで、国会の議事日程権限が首相の指導力に及ぼす影響力をどのように変化させてきたのか明らかにすること。(2) 自民党の事前審査制が発展し、実効性が担保されていく過程を明らかにすること。(3)英国と比較した場合の日本の首相の与党議員に対する人事権の行使のあり方などの特徴を明らかにすること。 2019年度は新たにいくつかの研究成果を得ることができた。第一に、55年体制成立以降の首相が政府及び与党内で影響力を拡大する過程を分析するための視角を提示し、分析した。特に55年体制成立以降、自民党政権における首相の閣内および党内における人事権がいかに変容したのか検証し、政治改革以降、首相の人事権の拡大が続いていることを示した。特に無派閥議員の登用に注目し、派閥の影響力が衰えていることを把握した。第二に、2001年の省庁再編以降、内閣官房の組織に関する資料の収集に努め、組織および人員が拡大を続けたこと、幅広い分野での政策立案を担い、政策立案過程への関与を深めていることを明らかにした。また、首相が議長をつとめる会議が増え、その多くの事務局を内閣官房が務めていることも明らかにした。第三に、首相の議院運営委員会、自民党の国会対策委員会、総務会、政務調査会に対する人事権のあり方を検証し、国会の議事運営に対する首相の影響力や事前審査制のあり方の変化の分析を試みた。英国の首相と比較した場合、日本の首相は人事権については同等の権限を保持していると考えられることを確認した。
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