この研究は,現在日本の行政が,(i)他国との比較の中でどのように位置づけられるのか,(ii)なぜそのような位置にあるのか,(iii)そのことの帰結は何かという三つの問いに対して,ゲーム理論,政治制度論,計量分析を組み合わせることで,解答を試みるものである. 今年度については,主に二つの研究を行った.一つは,第二次以降の安倍政権における官邸主導の政治が中央行政機構に与えた影響を,内閣人事局の機能に注目して解明しようとするものである.もう一つは,文部科学省を対象として,サーベイデータを用いることで,その機能や行動を解明しようとする研究である. 前者の研究は,各省庁の幹部クラスの職員数について,年度間の変動に基づく分析を行うことを通じ,内閣人事局による組織リソースの管理の実態を確認した.ここからは,内閣人事局による人事管理は官僚制の流動性を高め,組織変化をインクリメンタリズムからよりダイナミックな性格に変えつつあることが確認された. 次に,後者の文部科学省についての研究は,サーベイの分析から,国益に基づく判断が可能であると考え,効率性や政策評価に対して消極的である文部科学省官僚の認識や,関係団体やいわゆる族議員との関係は良好だが,官邸との距離は遠く,財務省との対立が深いといった姿を浮かび上がらせた.ただし,その特徴のいくつかは,技官の態度や行動に特徴的なものでもある.省庁再編に伴い,技官の割合が高くなっていることが,これらの特徴をもたらしている可能性にも注意が必要である. これらの研究は,全体として,現在の日本の行政が官邸主導といった新たな動きに対して,ある部分は対応を見せつつ,ある部分はそうではなく連続性が強いという形で,不均一な変動過程にあることを示している.
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