研究実績の概要 |
リスク・ガバナンスにおける不確実性の政治学の射程に入るイシューは多岐にわたるが、初年度は、主として文献調査を通じて、その理論的考察を深めてきた。特に様々なセクターで起きているセキュリタイゼーションについて、いくつかの側面から検討を行い、その途中成果として、下記の論文を公刊した。特に2番目の論文は、移民・難民がリスク対象として認識するような右翼ポピュリズムの現状況について、政治理論の側面から論点整理を試みたものである。3番目の論文は、2016年度の国際政治学会の分科会での報告をもとにしたもので、保護する責任(R2P)論、つまり国境を越えた形での文民保護の責任という議論が、リビア介入などの例に見られるように、地政学的関心などに引きずられるようになり、政治的責任の脱領域化から再領域化への反転が起きていることを論じた。これは、難民排除の政治と表裏一体の関係にある、リスクの過大評価を通じた過剰なセキュリタイゼーション、それに伴う政治的責任の再領域化という現象と言って良いだろうが、これらの論文を通して、その態様についての整理を行った。1番目の論文は、過度な正義の追求が政治的不安定(リスク)を増大させるという理由で移行期正義が骨抜きにされる現象を、インドネシアやカンボジアの事例を通して、再検討したものである。
1、「移行期正義」 山本信人編『東南アジア地域研究入門 3 政治』慶應義塾大学出版会、2017年、293-309頁. 2、「システム危機の表象としてのスペクター(右翼ポピュリズム)」『現代思想』2017年1月号, 190-198頁. 3、「R2Pのメルトダウン:UNSC1973前後の責任のあり方をめぐる政治」『国際協力論集』Vol. 24(2), 2017年,115-128頁.
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