研究課題/領域番号 |
16K03472
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
長谷川 一年 島根大学, 法文学部, 教授 (00399049)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 群衆 / ナショナリズム / レイシズム |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究実績としては、高野清弘・土佐和生・西山隆行編『知的公共圏の復権の試み』(行路社、2016年9月、39-67頁)に寄稿した論文「世紀末における群衆論の系譜――シゲーレ、フルニアル、ル・ボン」が挙げられる。この論文は、19世紀末から20世紀初頭のフランスにおいて、「群衆」という概念がどのように発見され、いかなる意味合いを付与されたのかを思想史的に跡付けたものである。 イタリアの法学者シピオ・シゲーレは、集団犯罪に関与した諸個人に、どこまで刑法上の責任を問えるかという問題意識から群衆にアプローチし、同時代のフランスの法学者たちに影響を与えた。このような問題意識を共有したフランス人軍医アンリ・フルニアルは、精神医学の領域に引きつけながら、群衆の犯罪について論じた。そして、フランスの心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、それまでの議論をいわば総合するかたちで、群衆の非合理性、犯罪性、狂気といった特徴を、その主著『群集心理』のなかで余すところなく描き出すと同時に、群衆とは現代によみがえった「蛮族」であり「原始人」であると見なして、群衆論をレイシズムの文脈に接続したのであった。 非理性的な情動に突き動かされる群衆というイメージは、その後に発展する「エリート理論」や「大衆社会論」にも継承されていくことになるが、このような知的風土のなかからフランス・ナショナリズムの理論と運動が発生してくることに鑑みれば、群衆論をナショナリズムとレイシズムが出会う現場として位置づけた点に、この論文の意義が認められるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランス・ナショナリズムの思想史的起源に、一定の照明を当てることができた。ナショナリズムが「リベラル」であるための条件を考えるには、このような思想史研究が不可欠であり、またフランス共和主義にある種の「不寛容」が内在しているとすれば、その克服の手がかりも、こうした作業を通して得られるように思われるからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性としては、エルネスト・ルナンの思想に焦点を合わせる予定である。ルナンはまさに、ナショナリズムと共和主義の結節点に位置する重要な思想家であり、その言説の射程は現在にまで及んでいるからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
公務多忙により、当初予定していたフランスへの出張を延期せざるをえなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、フランスに出張し、資料収集を行う予定である。
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