研究課題/領域番号 |
16K03472
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
長谷川 一年 南山大学, 法学部, 教授 (00399049)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レイシズム / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
平成29年度の主要な研究実績としては、科学研究費補助金主催・東京大学美学芸術学研究室後援の日仏シンポジウム「アフリカ・カトリシズム・文化相対主義――ライシテの時代におけるプレ-モダン的徴表のゆくえ」(2018年1月27日、東京大学にて開催)において、「ゴビノーとフィルマン――文明史への二つのアプローチ」と題した研究報告を行ったことが挙げられる。 ゴビノーは、よく知られているように、白人ことにアーリア人を頂点とする人種的ヒエラルキーを前提として、人種間の混血がこうした秩序を崩壊させ、文明の衰退をもたらしたと慨嘆した。他方、ハイチ出身の法律家で人類学者のフィルマンは、その浩瀚な主著『人種平等論』において、ゴビノーのレイシズムを真正面から批判した。フィルマンは包括的な実証科学としての人類学の立場から、諸人種の平等を説き、黒人の地位の復権を図った。ゴビノーとフィルマンのこの対立は、たんに理論的水準のものではなく、その背景には、ハイチを含む「新世界」の文明を人類史のなかにどのように位置づけるか、あるいは西欧植民地主義の帰結をどのように評価するかといった、より政治的かつ実践的な問題がかかわっていた。 この研究報告では、ゴビノーとフィルマンの人種をめぐる理論上の差異や、その政治的・実践的な含意を探ることによって、19世紀に頭をもたげてくる「フランス人」のナショナリティの内実を明らかにしようと努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランス共和主義を歴史的・思想史的に把握するためには、第三共和政期の思想と行動を理解することが不可欠であり、その意味では、19世紀後半における人種・国民・文明をめぐる言説の状況を一瞥できたことは(一見すると迂遠にみえるかもしれないけれども)本研究の遂行に有意義であったと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
フランス共和主義ならびにリベラル・ナショナリズムの理論的展開を十全に把握するためには、両者を胚胎した西欧近代についての内在的理解が不可欠であるとの観点から、現在の理論動向に目配りするとともに、19世紀後半以降の政治史および思想史の流れを重視しながら、本研究を遂行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度内に2回の海外出張を予定していたが、時間的に1回しか出張できなかったため、次年度に経費を持ち越すこととなった。 平成30年度は早い時期に海外出張を行い、資料収集に努めたいと考えている。
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