今年度は、過去3年間における研究のまとめとして、「帝国」「君主」「コモンウェルス」の3つの観点から、ルネサンス期から初期近代にかけての「イギリス」政治思想史を描き直すことを試みた。 その成果の一部は、『法政研究』第85号(2019年)に掲載された論文 'Orpheus's Theatre: Civility and Empire before the Civil War' にまとめられている。この論文は、研究期間中の17年3月に、ヘルシンキ大学のペルトネン教授を迎えて九州大学で開催されたセミナー Early Modern Intellectual History Seminar での報告に、その後の研究の進展を踏まえて加筆・修正したものである。 この英語論文では、イギリスの内乱前の「ブリテン」を対象に、「文明」と「帝国」の概念を踏まえた上で、とくにジェイムズ6世・1世やフランシス・ベイコン、ジョン・デイヴィスらによって構想された、イングランド、スコットランド、ウェールズ、そしてアイルランドから構成される、文明的な君主国としての「ブリテン帝国」のヴィジョンが明らかにされた。 今年度はまた、以上の研究を書物にするための作業として、『想像と歴史のポリティックス―帝国・王権・ブリテン(仮)』の序文と第2章(「ブリテン帝国の劇場―「ユートピア」から「ビヒモス」へ」)を執筆した。その内容は、6月7日に行われた慶應大学大学院の演習などで報告された。 このように、本研究においては、「デモクラシー」の展開や「自由主義」の発展、「近代国家」の形成などに還元されない、複合的な帝国の統治を可能にした「ブリテン」の経験と記憶の一部が明らかにされるとともに、その研究成果の英語による国際的な発信がなされた。
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