研究課題/領域番号 |
16K03483
|
研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
苅田 真司 國學院大學, 法学部, 教授 (30251458)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | アメリカ社会学 / マッキーバー / リンド |
研究実績の概要 |
今年度は、1930年代におけるコロンビア大学の社会科学観の相克を跡づける研究を行った。特に、コロンビア大学の政治・社会関係学部内における、社会科学者の役割と社会科学教育の役割をめぐる議論を、主たる研究対象であるロバート・マッキーバーと、1930年代から50年代にかけての同僚であるロバート・リンドの対立関係を軸に検討した。特に、両者の間で公開で行われた1939年の論争を中心に取り上げた。 従来の研究では、この論争の位置づけが十分にされていないばかりでなく、当時もう一つ大きな問題となっていた実証学派とシンボル相互作用学派との間の「方法論争」との関係も十分には解明されていなかった。こうした点を踏まえて、この公開論争の意味を解明した点にこの業績の意味がある。 今回の研究によれば、マッキーバーとリンドの対立点は、方法論ではなく、むしろ社会科学者が社会で果たすべき役割に関するものであること、その役割の問題は社会科学の科学性の問題と密接に関連していること、そして、それが大学における学生の教育方針についての対立にまでつながるものであることが明らかになった。 当初の予定では、マッキーバーとリンドの未公刊資料を用いて、より立体的にこの論争を俯瞰する予定であったが、コロナ感染症のため未公刊資料の閲覧が困難であったため、公開で行われた論争と、その前後の両者の著作や自伝等の断片的記述から、対立の深層を解明した。今年度の研究成果は、「マッキーバーとリンド もう一つの方法論論争」(『國學院法学』第58巻第4号、2021年3月)として公刊されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、国外所蔵のマッキーバーに関する未公刊資料を収集し、それに基づいて、1930年代のマッキーバーの社会科学観に関する新たな知見を獲得する予定であったが、コロナ感染症の影響で、短期の海外出張が困難な状況が1年以上にわたって続いており、この部分の研究の進捗のみが遅れている状況である。研究費として申請したもののうち、執行されていない金額の多くは、この海外出張に関わるものである。 また、同様の理由により、国内各図書館室に所蔵されている資料の閲覧に関して、支障がある状態が続いている。そのため、国内外における資料の収集可能性を念頭に置いた研究計画の再構築を図る必要があり、そのためにかなりの時間をされなくてはならなくなった。 公刊図書の収集・分析を中心とする研究に関しては、概ね順調に研究は進んでいる。研究費もほぼ予定の費目に沿って消化されている。研究成果に関しては、上記の研究計画の再編との関係で、成果論文の公表が予定よりも遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、ロバート・マッキーバーの方法論に関する検討を踏まえて、方法論と社会科学観の関連について主として分析する。マッキーバーに限らず、社会学における方法論争と社会科学観との関係は、これまでまったく顧みられてこなかった部分であり、重要な研究成果となる。 今年度の研究の重要な部分は、未公刊資料の収集と分析であるが、上記したように、昨年度の状況を踏まえて、資料収集の可否によって計画を柔軟に変更できるよう、研究計画の練り直しを行った。概要は、以下の通りである。 1)早期に国外資料収集が可能になる場合 この場合には、出来るだけ予定通りの資料収集を国外で行い、研究成果に結びつけたい。渡航制限等の事情で、予定された渡航先の一部しか訪問できない場合には、それを前提として、オンライン資料等で補足しつつ、当初予定していた研究成果にできるだけ近いものを実現する。 2)国外での資料収集が困難な状況が続く場合 この場合には、国内資料およびオンライン資料を中心に、出来るだけ当初の研究計画で予定していた研究成果に近いものを実現する。ただし、国内資料の訪問しての収集も困難である場合も考えられるので、事前に資料の精選を行い、的確な資料収集に努めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究状況の進展の遅れによって昨年度からずれ込んだ国外における資料収集に旅費を支出する予定であった。しかし、コロナ感染症の拡大のために、渡航を予定していた連合王国への短期での出張が困難になったことから、この出張に支出する予定であった旅費及び滞在費が支出できなかった。 また、この状況の変化を踏まえて研究計画の再検討を行ったため、新たな研究計画に沿った物品の支出等が間に合わず、その一部が未消化となった。 本来は、今年度が研究最終年度であったが、研究期間の延長が認められたため、上記の国外での資料収集を最優先として考えるが、状況に柔軟に対応して、出来るだけ当初の研究計画に沿った研究成果が得られるように支出していきたい。
|