アメリカでは一般的に人種・民族文化的マイノリティは民主党を支持する傾向が強いとされている。2016年大統領選挙時に共和党候補のドナルド・トランプが中南米系移民を麻薬密売人や強姦魔として批判するなどしたこともあり、中南米系の多くは民主党を支持すると考えられてきた。だが、2020年大統領選挙の出口調査を見ると、驚くべきことに2016年大統領選挙時と比べても中南米系の中でトランプに投票した割合が増大している。その理由の分析を通して、アメリカのマイノリティ政治の性格を明らかにしようと試みた。 具体的には、アメリカでは移民は世代を経るごとにアメリカ的価値観を身につけていくようになり、徐々に政治的態度を変化させていくと指摘されてきた。だが中南米系に関しては、それ以前の移民とは違い移民の流入が継続していて英語ではなくスペイン語を使い続ける率が高いことや、中南米の国々が二重国籍奨励策を採るなどしていることから、政治態度を変化させる比率が低いとされてきた。だが2020年大統領選挙の出口調査の結果や、Wall Street Journalの調査などを踏まえると、中南米系も徐々に政治態度を変化させつつある可能性が高いことが判明した。 中南米系も民族文化的アイデンティティだけではなく経済問題を重視するようになっているし、アメリカン・ドリームを追求する傾向が強くなっているように思われる。また中南米系はカソリックの比率が高いこともあり、人工妊娠中絶などに批判的な態度を示している。にもかかわらず、民主党左派(とりわけアイデンティティ重視派)は、黒人やLGBTQの問題や人工妊娠中絶などの争点を重視し、経済成長を必ずしも重視していないと考えられるようになっている。アイデンティティのみならず、アメリカ社会での生活を重視しているマイノリティをめぐる政治の在り方に関する検討を行った次第である。
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