2019年度は以下の3点をつうじて当該課題についての研究を進め、その成果の一部を公表した。 (1)所属機関において外部講師を招聘しての研究会を主宰した。コンドルセについての講演と討論をつうじて、初期近代の科学史と政治思想史における原子論の影響についても認識を深めることができた。 (2)マキァヴェッリにおける内紛の意味について、また、ルネサンスにおける「徳の政治学」について、研究文献の読解と一部翻訳を進めた。和合を妨げる政治的悪として内紛をとらえる古代の伝統と、内紛を制度内での裁判構造に回収しようとする共和主義的立場との両者に反対しつつ、マキァヴェッリが、内紛における非暴力的紛争/暴力的破壊の区別を尊重しながら、そこに気質や情念といった内的性質の要素をも加味して考察していたことが確認された。また、イタリア人文主義政治思想には、「共和派と君主派の対立」や「歴史的レトリック」だけには解消されない豊かな鉱脈があり、それらのうちには、戦争の道徳性、政治における富の適切な役割、支配者による服従の調達、法と制度に及ぼす支配者の道徳的資質の影響、政治的腐敗の諸原因、社会的階層秩序の正当化、エリートの道徳的改革、審議の理論、栄誉と敬虔の社会的役割、徳の果実としての自由、といった諸テーマが含まれる、という主張が近年の研究でなされていることも確認された。 (3)2019年12月に関西大学において開催されたマキァヴェッリと宗教をめぐる研究会にて、マキァヴェッリへのエピクロス主義の影響についての研究報告をおこなった。とくにマキァヴェッリにおける原始主義に焦点を当てたこの研究報告で、マキァヴェッリへのエピクロス主義の影響が、原子論や宗教の功利的・政治的利用にとどまるものではなく、社会形成についての進化論的観点にまで及んでいることを論じた。
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